哀しみを無理矢理に笑顔に換えてく。
これが、どれだけ辛いものなのかって分かってくれない。


走る影




夕暮れどき。千切れていく波の音がもう何度泣いたか分からないほどに繰り返されたオレンジ色のビサイドの浜辺。 佇むのは白い身を浜辺の端に泊めるカモメたちと、先日帰ってきた金色の髪の少年に茶色い髪の召喚士。 何を言っているのかまるで分からないカモメの鳴く声が木霊する彼らの周辺に、段々と細長い影が伸びて行く砂浜。
小さく砕かれたような細々とした砂はふっと、風に身を任せると何処かへとその身を吹き飛ばした。


「行く先々に出て来る変なこととか、変なものとか、それに対応するだけで精いっぱいで」
他のものになんて、気を貸す暇なんてなかったし
「この先のこと考えようとか、さっきのこと考え直そうとか、行ってる暇もなくて今だけで大変」
キミを見つけたいって、ただ急いでた
「みんなは自分の幸せっていうのを見つけてくのに、なんで私は何も見つからないんだろうって」
探しても見つからないし、探しても見つかるはずもないし
「そう思ってたけど、今が来ちゃえば、今…なんだよね」
足掻いても嘘だと思っても結果は同じ。
いつまで経っても同じで、明日になって思い起こせば分かる「今」という瞬間。

浜辺にしゃがんで横にいる彼へと微笑みを見せる。それを見て彼が彼女へと眩しいような綺麗な笑顔を見せ返した。
「勝手に俺が消えちゃって、ユウナにすごく迷惑かけて、なのに俺はこんなにユウナに出迎えられてるってこと。」
「ううん、全然悪いなんて思わないで!私が勝手にキミを探してただけだから!」
あのときはどうしてすぐに挫折しちゃったりしなかったの?とか、どうして諦めないの?って今は思うけど
どうしても続けたかったって、思ってたんだよね、きっと。

「キミを探すまで、ずっと私は何にも2年前から変わってなかったんだよ。待っていれば最初に会ったときみたいに、いつか私のもとへと現われてくれる。探さなくっても大丈夫だ、って」
ねぇ、どうしてリュックが来てくれるまでずっとビサイドに閉じこもりっぱなしだったんだろう。
知らない間にみんな変わっちゃってたっていうのに。


幾度目かの波の立てる波渋きの音。その場に静寂を齎すように静かに音を立てると、その波は何処かへと消えた。


「ユウナって、そのカモメ団に入る前っていうのは何やってたんスか?」
「カモメ団に入る前?…私と話したいっていう人がけっこういて、だからビサイドでそういう人たちの話を聞いてた…のかなぁ」

「それだけで一日が終わっちゃってた。疲れてもないのに気付いたらもう陽が沈みかけてて、毎日それのくり返し」
「そ……っか。」

こんな思い出ばかり創りたい訳じゃないけど、それでも進んでっちゃうよ。
進んだ先に、キミを見つけられたことは思い出に残しておきたいことなんだけど。
「やる事がいっぱいあるからって、だけどやってる事っていうのは単調で同じものの繰り返しばっか。」
「2年前の、ユウナらしいけどね」
「私だって、そんなのしたいんじゃないんだよ?」


夕陽はじわじわと、下の方から橙の色へと滲み染まる。まるで空高くから落とされた金色のボールの様に、一瞬のうちに身を少しずつ落として水平線の向こうへと隠して行く。
伸びて行く影も、次第に周りの濃くなる黒へと紛れ、一瞬で影は周りの闇との境界線も見分けられない程に見えなくなってしまった。

「行こ。今日はね、エボンの関係の偉い人が来てるからお祝いごとみたいな、そんなのするんだって。」
「ビサイドに?珍しいッスねぇ、こんな本土から離れたところに」
「んー、なんか私たちに会いに来たんだって。私とリュックとパイン。きっとヴェグナガンのことだと思うけど」

ティーダは下ろしていた腰を上げ、脚に付いた砂を手で払い落とす。そして彼女のいる方へと手を伸ばし、差し伸べると、彼女は静かに彼の手を握って立ち上がった。
「うん、もう村の方から声が聞こえるよ」

涼しい風がビサイドの木々を揺らし、葉が囁く。真っ黄色の月がビサイドを優しく照らし、星々と共に空の高くへと昇る。
その時丁度ビサイド村の中央、皆が集まった広場に大きな炎が灯される。
「だいぶ遅かったじゃない。もうあの人たちの話終わっちゃったわよ」



広場へと帰ってきた二人を出迎え、そう言ったのはルールーで、横でうんうん、と頷くように首を縦に振ったのはリュックだった。
「だってー、二人とも帰って来るの遅いんだもん。ま、すんごい暇な話だったから聞かなくても良かったかもー」
「諦めなって、リュック。年寄りは話が長いし暇なんだ」
そうリュックを宥めたのは、ユ・リ・パのもう一人、銀髪で黒い服を身に纏ったパイン。
「でも、ユウナに一番用事があるんだろ?そんな感じだった」
「わ…私?」

「んー、なんで私なんだろう?ヴェグナガンとか、そういうのに関係してるのはみんななのに」
「そっりゃあ、ユウナんは大召喚士サマなんだもん。エボンもそれだから、ユウナに声かけやすいんじゃないの?」
パチパチと、広場の中央の大きな炎が鳴り、火の粉が跳ぶ。
キャ、と短くリュックが喉で叫ぶと、ルールーが抱いていたイナミがうわぁぁ、と泣き出した。
「うわっ、ゴメンねってばー、イナミちゃーん…?」
リュックが困ったような顔つきでそう言いながら、よしよしとイナミの額を撫でると、イナミはぐすっぐすっと泣き止み、やがていひひ、と笑い出した。


「やっぱ、複雑?」
「パインほどは複雑じゃないと思うけど」
静かに広場の地に腰を下ろし、紅い瞳の彼女がユウナを見つめて訊ねる。
「複雑の内容が違うかな、私とは。どうして自分がまだエボンに気にされてるんだろうとか、そう思ってるんだろ?」
「んー、多分当たり」

どうやら、炎の向かい側にはティーダとワッカ。もちろんワッカがティーダを無理矢理に連行して、ビサイド・オーラカのことを話していると思われるのだが。
「なんか、もう私はエボンとか、いろいろ。そういうのに関わりたくないんだ」
また、自分を見ないで進んで行っちゃいそうだから。
「だから、また何か言われたとしたら断わろっかなぁ、なんて。そう思ってる」
「ユウナには、それがいいんじゃないかな。私には何とも言えないけど」
「いいよ。私は私で考えなくちゃいけないんだから」
炎の前へとユウナは腰を下ろし、そして一度伸びをしてリラックスしたように瞳を閉じた。


「聞きたい?そいつらが今何処にいるか」
暫く炎の赤を見つめていたパインが、ユウナへと静かに口を開いて訊ねた。何を意図として訊ねているかが分からないような、彼女からの問い。
「どういう事?…なんで…?」
「なんだか、あいつら怪しかったんだよ。やたらコソコソしててさ、寺院に行くのかと思ったらわざわざ寺院の裏に行ったって訳」
パインが右手の人差し指で広場から寺院の方へと指差した。指で指した先には、広場からの炎の光が全く当たらない寺院があった。

行っちゃいけない、
無意識のうちにそう思っちゃうのは気のせい、なのかな?

「よく分からないよ。もしかしたら寺院の人たちにもやることとかー、そう、いっぱい何かやらなきゃいけないこととか、あるんだと思う。」
ハッキリとした根拠なんて何も無かったけど、パインの言うことを否定してる訳でもなくて、でもそれを信じたら私はいけないような気がするの。
「だから、勝手にしておいちゃ、おっか」
完璧に。私はその寺院の裏の光景を見たくない、そう思ってた。
見ちゃ、私は私で後悔するって、感じちゃう。そんな今日はおかしな日。

「本当に、いいのかユウナ?もしかしたらあんたに関係してることかもしれないし、関係なんてないかもしれないけど、それでも……いや、なんでもない」
「どうして?そんなにパイン、気になることなの?」
ユウナがパインを見て問うと、パインは目を泳がせ、もう駄目、というかのように重く口を開いた。
「きっとあんたにとって暗くて辛くて、聞いたって得なんてなにも無いさ。そんな話だよ、あいつらの話は」
今まで来た道を疑ってみたりもしちゃう。
後ろを見て、足跡を辿ろうとしてももう足跡は消えてた。もう後には戻れない。


「でもさ、逃げたら終わり。あんただって、その事よく分かってるだろ?」
「…うん。逃げて、終わっても…私は私を傷付けたくないって…思うんだよね」
傷付くのだったら、最初からその種を取っておきたいの。余計なことになんか、首突っ込みたくない。
「弱気だな、じゃあどうして最後まであんたはティーダってヤツ、探せたんだ?」
「んーただね、見つかるって信じてた。根拠とかは何にも無いんだけど、それでも見つかるかなぁっとか、もしかしたら会えるかもっとか、そーいうの。わっ、分かるっ?」
結局は、私が私で行きたくないんだけど。


「きっと、私にとって大切な事、そうなんだよね。」
「…たぶん、な」
行ってもいいなら。私は頑張るよ。

不安は止まらない。私の進める脚を止めさせるけど、振り切って進みたい。
「ねぇ、キミは、何処へ行ったの?」




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