甘えとか弱さじゃない。
ただ、面と向って出来ないだけ。


Falling




「……どういうことだ」
「そんなに僕悪いことはしてないと思うんだけど」
鋭い目付きで睨み付ける彼女も、それを何とも思わない顔でにこにことひたすら微笑み続けている彼の賞状だっていつもとたいして変わらない。

彼女の指先を握って、甲に口付ける。
すぐに手を振り払ってツンとした態度で横を見つめる彼女の視線は、一点を見てはいない。
「ただついてきて欲しいんだ」
「だから、私には仕事がある。」
「そう」
へぇ、と彼は返すと、一歩彼女に近寄って、彼女の耳にかかった髪を払って髪に唇を乗せる。
「今宵迎えに参りました」
ぴくりと彼女がうごくと、すぐ耳元の鼻で笑ったのと共に
「お姫さま」
そう言う彼の低いトーンの声が静かに耳に通った。


「絶対行ってやるか、超策士変態おーじさま」
「ボロボロに言ってくれるね、君」
「当たり前だ」
それくらい言ってもあんたは諦めないだろ、そう一言彼女自身が付け加えた。
ちゅ、と音を立てて頬に唇を落として「けど変態はないんじゃないかな」と言ったのが彼女に聞こえた。
そんな、セルシウスへの突然の来客者とパインの会話。

「君が簡単に来てくれるとは思わないけど、でも君は絶対に来るから無理矢理連れてこうとはしない」
「だから、甘く見るなって。しかもこんなに近付くなっ…て!」
ぽんと手で再び押し離す。また虚ろに瞬きをして、何処かを見つめる。仄かに頬を染めて言った彼女の言葉は
「ユウナたちに見られてたらどうするんだ」
「どうもしないけど?」
彼女はまた溜息を一つ吐いた。
また、あんたは何かやらかすんだろ?悪い予感はかなりしてる。


「やっぱやめ」
「ちょ、ちょっとっ!」
ぎゅっと彼女の腰を抱き寄せ、脚を抱え上げる。じたばたと脚を懸命にばたつかせる彼女に「どうせやったって何も変わらないでしょ」と耳元で囁くと、顔を歪ませて彼の脇腹に肘鉄を入れ込んだ。
「ただダンスパーティーの装飾の手伝い!」
「それなら私じゃなくてもできるだろっ?!」

「ユウナさん、ちょっとパイン借りますね」
にこり、と彼女を抱きかかえたまま微笑んだバラライがユウナに軽くお辞儀して言うと、ユウナも何か企んでいるのか不自然な程までの笑顔で手を振る。
「あ、ご自由にどうぞー。パインもゆっくりしてきてね」
「ちょ、ちょっとユウナまで!」
「だってパインここに居たって何にも仕事やらないんでしょ?だったらバラライさんといた方がパインのにも良いかなぁって思って」

「仕事やらない、だって。パイン?」
「だから!なんで私がバラライと居た方が良いんだって?!」
大声で怒鳴りつけた彼女を宥めるように言った彼の言葉は
「無理しないで」
「一体どういう事だっ!?」
とのこと。



「だからっ、そんなに近寄るなって言ってるだろっ!」
「近寄ったって、君が損することなんてないでしょ?」
グレード・ブリッジを渡りながら、握った手を力ずくで引き寄せて歩く。わざといつもより彼女の身体を近くに寄らせて、頬を彼女の髪に擦り付けてみたり。
「っ……ある…」
「バラライ様ぁー!」
後ろからの小さな子供の声に驚いて、ばっと彼の腕を精いっぱいの力で押し離した。
エボンの僧が着ているような服を着た、きっとベベルの僧間の子供であろう子供たちが3人くらいで束になってやってくる。赤に顔を染めて、彼らに背を向けた彼女を子供たちは何も気にせずに議長へ話し掛ける。
「やぁ、君たちもハロウィンのお祭りで遊んでるのかい?」
「はい!みんなで楽しんでますよ、こども団のみなさんともお菓子を貰いに行ったりとかもしてるんです」
顔いっぱいのにこにこ笑顔で、先程の表情とは豹変したバラライと話している子供たちを見て、彼女はまた溜息。 「あぁ、じゃあ僕もあげないとね。はい、お菓子」
右のポケットから、半透明の布で包まれた包みを3つ程出して、子供たちに一つずつ渡すこの様子だけなら、きっと彼女は彼のことにこんなに溜息を吐くことはないのだろう。
眼の端で彼らの様子を見て、「しょうがないな」と肩を竦める。
彼曰く「ダンスパーティーの装飾の手伝い」なので、彼女は彼もおいてその会場へと脚を運ぶ、
否運ぼうとした。子供たちの何気ない言葉で脚を留めてしまった。
「あ、その方ってバラライ議長がお付き合いしてる方なんですか?」
「……え?」
背を向けて、発った彼らが居る場所へと振り返る。ふっと、乾いた風が彼女の顔に吹き付ける。
彼はしゃがんで、先程の台詞を言った少女へ最高の優しい微笑みを見せ、頭を撫でながら言った。
「そうだよ」


「あの人はね、僕が今までで一番大好きな人。誰よりも…ね」
「綺麗な方ですねー」
首を傾けて彼女の居る方へと彼が向くと、「そうでしょう?」とまるで言っているかのように微笑んだ彼の顔が、視界の中で滲んではっきりとは見えなかった。


「何?そんなに静かにして」
「いや…、別に」
「そうか、君もお菓子欲しかった?」
再びポケットから包みをちらつかせると、俯いたパインの顔を覗き込む。
「もう子供じゃない!」
「だってまだ未成年でしょ、僕とは違って」
「あんたの方が性格は子供だ!というか、いったい何個入れれるんだよ、そのポケット」
「んー、議長の企業秘密、かなぁ」
「……馬鹿議長…っ!」



夜。結局昼間からずっと彼の仕事につき合せられるはめになってしまっていた彼女は、そのままベベルのパーティーに出されたコーヒーでも飲みながら、テーブルの角に背を預けて会場全体を見渡す。
ユウナも、リュックも、ヌージやギップルだって居た。また一口コーヒーを口に運ぶ。
それから一瞬後かどれくらいの間なのかは予想が付かない。けれどその次の瞬間にまた昼頃にあったような手を引く力。急いでこぼさないようにカップをテーブルに置いて、引かれた手の先に眼を運ぶと、やはり彼であった。
「今日は、何もかも上の空なんだけど。どうしたの、パイン?」

ゴホゴホと口を押さえて咳込んだ。コーヒーを飲み込む瞬間に急に引かれた手。
「いきなり引っ張んなって。ちゃんと飲み込めなかっただろ!」
再びまた咳込むと、彼はまた無表情のままで左手にワイングラスを持って歩く。彼女が急な対応に付いて行けなくなるのを狙ったかのような早足。
ばたりと開けて再び閉めたのは会場の隣にある、小さな部屋への扉。部屋の中は、カボチャのランタン一つで照らされる。時折、風が煽った炎は揺れ、影たちが蠢く。
「二人で居る方が、落ち着くだろ?」
「なんで…今日はそんなに強引なんだ……?」

影たちに覆われて、長らくの間真っ暗で何も見えない。自分の手も、目の前ですらも。
また、その一瞬を見計らった強く押し付けられた口付け。
ぐらりと思考回路が捻じ曲げられたように意識が遠のき、ふと我に帰ったときには伝う口に注ぎ込まれた、感じたことのない感覚と、果実の味が仄かにする液体。
「うっ…」
口の端から思わず漏れて、手で押さえる。


パリンっ、と床にガラスのようなものが落ちて割れた繊細な音が耳に届いた瞬間に、理性を取り戻す。
「何っ…、するんだっ…!」
ランタンの火が再び彼の顔を照らす。いつものように優しく微笑んでいるかのようなけれど虚しい彼の顔。
「君は…、もう子供じゃないんでしょう?」
急に彼に注ぎ込まれた液体が喉を無理矢理通り、今も酷く喉が痛み、咳込む。
「だからって…、まだ私はワインなんて…っ!」
「何も…君は言わなくていい」
ぐしゃ、と彼女の髪を掻き乱す。首に押し付けられた彼の唇にも、まださっきのワインの感触。
赤い、まるで血にも似たワインの色。床に撒かれた粉々のガラスと、そのワインレッド。
「今日は、帰らせるつもりなんて無いから」



でも、君はまだ子供なんだもの。
あのハロウィンお決まりの言葉を言う資格があるんだよ、君には。
「その言葉」を言われたって、言われなくたって
受け取ってもらえるかも分からないような強引な愛を君に押し付ける。
けれど、僕はきっと君がこれを受け取ってくれるだろうと信じている。
トリックでも、トリートでも、
君に選択肢は無いだろう。
君は、君を支払わなくちゃいけないからね。
「トリック・オア・トリート」




fin.





最後の方に全力を込めて。
最初からここだけ書こうとしてたんだけど、急遽子供たち登場。
ベベルに子供って住んでる…んですか?住んでたら思いっきり敬語か丁寧語そう…
(名古屋弁しか遣わない管理人とは大違い!(汗))
全力勝負・直球で、(変化球無し)っていうのが私の目標であり、
ただ最後の場面書きたさでハロウィンの話を三つ書いちゃったり、ものすごい情熱。
イメージsongは中島美嘉さんの「Love Addict」と「沙羅」。
どっちもそっち系だなv(?)




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