もう、戻らないよ。
この時間も、瞬間も、君も。


淡色彩り




先日、招集がかかった。絶対かからないと思っていた彼女に。
召喚士ではあった。けれど、国にとっては必要な「歌姫」だった。
その事は、彼女の居る国が、最悪最低の状況に陥っていることまでも意味していた。


「そんなに深く悩まなくたって、いいよ。私、大丈夫だよ」
「レンはさ、分かってるのか?もうザナルカンドに帰ってこれないんだぞっ…」
椅子に座り、伏せた金髪の彼が嘆く。伏せて嘆く理由も、そう真剣に悩む理由も、全て彼女だった。
それでも。誰よりも悩み込むはずの彼女は、少しも微笑んだ表情を濁らせない。
ただ、彼に向っていつも通りの微笑みで、話し掛けるだけ。いつもと少しも変わらない。
「うん、もう帰ってこないよ」
きっぱりと、言い放つ。

「大丈夫だよ。君がそんなに心配しなくても。それに私、また君に会えるような気がするんだ」
「どこでだよ…、もうレンはあっちに行ったら俺と会う機会なんて…レンが生きてる間には絶対にないんだ」
華奢な彼女の腕を乱暴に握って、近くへと引き寄せる。彼の冷たく、不安に満ちた海の蒼の瞳が彼女を見つめる。
先程までの微笑みは消え失せ、彼女の瞳が迷って、幾度と揺れた。
どうしようも無いほどに、冷たく緊迫した重苦しい雰囲気だけが残る。

「そうだろ?もう…会う事もできないんだ…俺達」
くるりと踵を返し、彼女へと背を向けて右手でくしゃ、と金色の髪を掻いた。
焦るように、困ったように。
「……私だって、そんなこと分かってるに決まってるでしょう」


「私だって分かってるよ。だけど…!今そんなに心配してたら、ザナルカンドから居なくなるときにもっと哀しくなっちゃうよ」
できるだけ、そのことは気にしてたくない。私が君の元から去る日を、私は来ないって直前まで思っていたいから。
君には、ちょっと遠回りに思えたのかな。私の気持ち。
「今はそんなこと忘れて、笑おうよ。全部忘れちゃおうよ、哀しかったこととかも、全部」

泣けちゃうストーリー、別れてしまう愛しい人。
ドラマの世界だけだと思ってた。結局、私たちもそうなっちゃうの?

「だって、本当に今から離れちゃうってこと考えたら嫌だよ。」
「そうだけどさ……」
「ね、シューイン。今楽しくしてたら、離れてからも苦しくないかもしれないよ。」
もしかしたら、いつか会えるって、なんとなく思うんだ。
それが、ただ哀しみを少しだけ和らげるための偽りの想いだったとしても。
自分を慰める為で、誤魔化しで自分を護る為の自分の防衛手段だとしても。


「どうして、分かった瞬間から、私が居なくなる瞬間まで笑ってくれないの?」
彼女が、彼の腕を握り、彼の正面へと歩を踏む。じっと、彼の迷った顔を見て、言う。
「私が、君の笑顔を一番見たいってときなのに…離れちゃう最後だっていうのに…」
ぎゅっと、抱き付いて、彼の背へと腕を廻す。
「ねぇ。」
何とか、言ってよ。

「どうしてなのっ?私の事、好きだって。そう言ってくれたよね?」
なのに、私の最後の願い事聞いてくれないの?
「最後の君の思い出が、悩んでる顔なんて嫌だよ…」
君との最後の思い出を忘れれない程、私は君のことが大好きだよ。


「俺だって…何も考えてない訳じゃないよ」
彼女の肩を抱いて、耳元でそう囁く。はっと、彼女は瞳を開くと、頬を一粒の水が流れて行った。
「レンが出発するときに、哀しい顔してるなんて考えたくもないし、実際に見るのも嫌だ」
うう、と彼女が歯を食い縛り、ぽろぽろと瞳から何粒かの涙が落ちる。彼の背に廻した手を、握る。
「絶対に、させない」
「っう……」

「泣くなよ。歌姫が泣いてたら、ザナルカンドのみんなが哀しむだろ?」
「そ…そうだけどさぁ…」
「レンだって、哀しい終わり方は嫌って言ったんだろ?」
君に、こんな終わり方を求めてないって言ったのに、結局は私がしちゃうんだよね。
いつも、私が我侭で……

分からず屋。本当はそう言おうとしてた。
口が悪いのは私の悪い所だけど、本当の分からず屋は、私だったんだ。


「笑っていようぜ。レンが出発するまでさ…」
「…うん。」
「レンが出発するまで、俺がレンの側にいてもいいならさ……」
「……うん…」
君が、ずっと一緒に居てくれるって、言ってくれるなら。

「ずっと、一緒に居て欲しいよっ…」
彼の肩の上を通り、首の後ろへと腕を廻す。ぎゅっと、引き寄せて。
「私だって、本当は行くなんて嫌だよ、怖いよ。だけど…もう引き返せないんだ。政府も、もう駄目なんだって」
「…そうなんだな」
「事務所からも、なんかそういう歌手まとめるとこの人からも、私が行くことずっと反対してて、でも反対しても反対しても、もう駄目だって」
「…そう、なんだな」
「もう遅すぎたんだ。何も戻って来ないよ…もう、戻らないよ。この時間も、瞬間も、君も。」
幸せすぎた瞬間。幾度となく繋がって、今まで時間となってくれたけど…
もう、私の元へと繋がらない。


「まだ、こうしてていいかな…?」
「…ああ、ずっとしてていいから……」
彼女の背中を優しく撫でる。また、再び彼女の瞳から一つ、水の粒が落ちた。
優しすぎたんだ、君が。
「忘れないで、俺のこと」
「……うん」
どう言えば、いいのかな。


言葉に全部託せないし、隠せない。
だから、君を感じていたいよ

淡くて、時には泣けちゃう恋だった。
でも、泣いちゃうほど、君が大好きだった。
過去のことにはしたくない、だけどいつかはそうなっちゃうんだよ。

短くて淡くて、記憶にはきっとなくなっちゃうこんな思い出。
言葉にできないのが、きっとこんな思い出。……忘れたくないよ。

君の鼓動も、いつも私を暖かく迎えてくれる君を
全部、覚えていたい。


辛い程に全部伝わってくる。君の、暖かすぎる体温。
君がいまどんな気持ちなのかとか、どう想ってるのか。
全部、少ししか分からないけど…忘れないよ。



でも。淡くて、ちょっと辛くて
君を全部覚えておかなきゃいけないのに、
全部私の身体に染み込ませるくらいに感じていたいのに、
私の最後の君を感じる場面が、ちょっとだけ哀しすぎたのかな。




fin.





セレブスピラ投稿シューレン作品第2団。
テーマは体温でした。
実は、シューレンみたいな(私的なこだわり)純粋な思いっていうのは私全く経験したことなんぞ無いもので、
毎回ものすごく苦戦しています。だからいつも単調で単純。
セレスピの、シューレンで最後の投稿作品としてふさわしいものを!ということで頑張りましたが、 どうでしょうか?


site UP '04/11/03