それは、幻想の中で垣間見た、
君の瞳と同じ色の花。


夢の中の別れを告げる華




こんな場所は、きっとスピラにはない。
きっと脳天の幻想。見た事も無い、ただの空想の世界。どこにも有り得るはずはないこの世界。
そんな世界で君を見たような気がした。
それが意味をするものは……僕が疲れすぎなだけなんだろうか?

海の底に大切な物を落としてしまったくらいの喪失感。
空に虹が架かるときに想う何か物悲しい儚さに似ていて、
それを一瞬で悟った、そんな感じだった。

失ってはいけない君に、どうしても手を伸ばせなかった理由は。
なぜならそこに君がいるとは思えなかった。いつ消えてしまうか分からない。
伸ばした瞬間に、君は背を向けて消えてしまった。
また、瞼を落とした。
I'm searching for you,cuz I wanna say to you.
"I lov' you. So I always need to you."
「どうしても、周りが理解できなかったんだ。知らないし、第一…」
「はいはい」
まるで子供が母に怪我をして処置してもらっているように、恥ずかしがってそっぽを向く。
右手で頬杖をついて、無言で左手に彼女が絆創膏を貼り付ける。
「うとうとしてたからって、ついも何も手切るなんてことするなよ」
「だって、君も紙で手切ったことなんていくらでも…」
「あいにく、いつも手は出してないからさ、そんなことないもので」
「……そう」

同意を求めたが、珍しく彼は失敗した。
こんなことは前代未聞。いつもなら彼女を妙に納得させることができるはずなのに、易々と彼女に違う、と言い流されてしまった。
そんな彼は苦笑い。


「少し動揺してたんだ」
「何に?」
「夢に出てきた君に」
「…めずらしいな、言訳なんて」
…僕ってやっぱ信用されてないなぁ。
「だから、本当のこと」

「すごく、赤い花があって、そこに君がいた」
「そうか、あんたも遂に過労で死の直前まで行ったか」
「死の世界の前は黄色い花畑って決まってるだろう?」
「……ロマンチストめ」

「はい。終わり!」
ばしっ、と先程彼が怪我した場所を叩く。彼の顔が、ものすごく歪んだのは見えた。
「ありがとう、パイン」
「……まぁな」
「正直じゃないなぁ」
「うるさいっ!」


ふと、彼女が積まれた書類へと眼を移す。
すると、とある一枚の白い書類の隅に彼の血か、赤い染みが付いていた。
「いっそ、全部赤に染めて見るか?この書類」
「あー、それはやめて欲しいな。そうだなぁ、君の眼の赤以外、赤は見たくないんだ」
肩を竦めて手を広げる彼女の顔はほんのりと朱に染まっているのを、彼は分かっている。
「…やめて欲しいのはこっちの方だ」
それは、見えなくても。


体内を巡る血も、暮れかかった太陽も真っ赤。
一番自然の色で、ときには怖くもなるその色は、きっとだれもが恐れている。
その色を見たいが為に、君の紅をみる訳じゃない。

そう思うのも、今日が初めてなんじゃないよ。
「何言ってるの?」
「物分かりが激しく悪すぎる」
祈りたいことが、一つだけある。

いつ見ても君は変わらないところだってあるし、いつだって変わってるところもある。
ある日、2年前のことを思い出して、そのときの君が今とは全然全く別人だということも知ってる。
お願いだから、戻って欲しくないんだ。何が起きても、前のようには。

今日だけはちょっとした警告が出てしまったのかな?
変、なんて言わせないよ。
見飽きた君の表情なんていくつもある。それでも、君だけは手放したくはない。

これから先も、ずっと。
それができない、そう言うようにあの花は風に揺れていた。
風と一緒に、君が居た。
「…悪かったね」
「分かってるんだったら最初からそうしないこと」



言葉では表せれないよ。いつも想ってる君のこと、
君がいつかいなくなってしまうのは眼に見えてる。
それとも、僕がいなくなってしまう、それかもしれない。
それが、夢で出てきた。

これが気持ちだから。
あの花は、まるで全てをかき消すような、真っ赤な色。
不吉な予感、別れの予感を感じさせたのは、初めてだ。

当たり前の今を一瞬ずつ大切になんてできない。
君の全てを一瞬ずつ受け止めれるほど、僕に余裕は無い。


もしも次の瞬間にこの世界が終わるのなら、
一番最初に君の顔を思い浮かべるよ。見飽きた表情でも、見慣れた表情でもなく、
今まで、一度だけ見た事のある本当の君の姿を。

この痛みも一緒に消えて欲しい。
消えない傷も、失いたくない物も、共に。
その髪も眼も、あまりにも当たり前すぎた。
ふと、目の前から消えるように。

何もしないで後悔するのなら、
やっては、いけないことを……

君の眼の色が映った、ただの白い花だと思いたい。
ただそれだけの話に済ませておいて。
君が居なくなる日を、考えたくない。




fin.





約、小説を書き始めてから1年半。
だんだん意図するものがハッキリしなくなって、話の最初と終わりが何も解決しないで変わらないまま、という話が増えてきました。


UP '04/09/12