「真実は、受け入れる為のものである」
何度も呼んだ誰かの言葉は確かに合っていて、確かなもののはずだった。
ずっと、信じていた。
ずっと、信じていたかった…
言葉でも道理でもない、ただ一人だけを信じて、それだけを願ってた。




通無風



この景色の中に求めていたのは決して難しいものではなかった。
手を伸ばせば届いて手に入れれると、想っていた。それが、確実に「不可能」へと一歩一歩踏み寄っていたのも確実。
それを確信させたのは、その動かない笑顔。
もう無理なのかもしれない、だって私は−−−
また、聞こえなくなって来る。けど、その言葉だけはずっと響いて反響して、鳴り止まなくて
「ずっと、そうしてきたんだろ?」


ばさり、と、勢い良く起き上がる。顔に手を運ぶとびっとりと染み付いた汗と、泪。
ふと回りを見回すと、それは彼の執務室、そしてソファの上で掛けられた毛布に、置かれた水の入ったグラス。
視線を伸ばした先の彼の机に、居ない。その机、椅子の主であるはずの彼が。
「どれだけ、時間が…!」
ソファから立ち上がって、時計を見るともう夕方の6時まで時計の針は傾いていた。慌ててカーテンの掛かった窓の傍へ寄ってカーテンを退けると、陽は赤味を増した橙色へと変わっていた。
カタン
背後からの一つの物音に振り返る。が、何も変わった様子も無い。
部屋の端々、どこを見ても彼の姿も彼の居場所の手がかりすらも見付からない。
じわりと目の奥が熱を持つ。必死に堪えて腕でこすると、視界が一瞬滲んでまた元へ戻る。
「探しに行く必要……」
なんて、ない。

喉に酷く詰まった想いさえももっと詰まらせて、これ以上に無い程の圧迫感と息苦しさ。
直に戻って来る、私が探しに行く必要はない。きっと仕事でどこかへ行っただけ。
私が行く理由はない、泣く必要もない…
……ただ、これっぽっちのことで泣くなんて、意味も分からない。誰も分かってくれないだろうし、私も許せないんだ。
この耳に残るのは二つ。
「僕は君を愛している」
「間違ってるかもしれない」
その言葉が本物で事実なら、思い出として、想い事として、
たった、それだけで私の存在理由…


どれだけの時間が経っただろう、
二年と、少し。初めて会ったときから、だけどさ。
ずっと二年間は生きてるのか死んでるのか、それを考えるのが先行で、何してるのか考えるのはその後。
こうやって苦しんでる理由、好きな理由の数ははっきり分からない。
あるのかも、数え切れないのかも、定かじゃない。

グラスに入れられた水を飲み干して、元あった場所へとそのまま置き去り。
すっと喉を通る感覚も意味無く消えたようなもので、何か解決した訳でもなく、何か解決に繋がる訳もなく。
隙間無く繋がれた鎖が、ただギリギリと音を立てただけの様に全くの無意味。

絶え間無く断続的に続く激しい腕の震え。手で押さえようと、動きを止めようとしても何もならなくて、ずっと震えたまま。怖い物なんてないのに。

今どこに?
探しに行ってもいいのか?私が探しに行くのを、きっとあんたは望んでない。
そうだろ?バラライ……


「祈れよ、エボン=ジュ。
夢見よ、祈り子。
果て無く栄えたまえ。」
ふと口に出して紡いだ歌は祈り子の歌の、本当の言葉。
単調で歌詞をこう変えたって殆ど同じように歌うことのできるこの歌。
こう変えて、笑いながら言っていたのは彼だった。
「本当はね、この詞をこう並べるんだ。そうすると、意味が分かるようになっててね」
「どうして、そんなこと知ってるんだ?」
「僕独自の研究、かな」
「……馬鹿、嘘だってバレバレ」


何度でも立ち尽くしてみたけど
躊躇いなんてないんだろ、私と違ってさ
いつも何事だってあんたは迷ってない
もう十分なのにあんたはそれなりにあんたなりの完璧な答を探してる
後に戻れないと踏んだ2年前のあのときの一歩から。

譬え、もし何が起きても…
そう、ずっとそうあんたは歩いて行くって思ってた
如何にかあんたはなるからって
でも、あんな表情は見た憶えは一度も無い。

何を言った?何をした?
教えて、早く。
煩い程怒鳴っても聞こえないほど小さくてもいいから。
何から話してもいいから、―――あんたの言った言葉をあてにしない訳ないだろ?


断続的な腕の震えと、止めようと服を握り締めた手に込めた力は相殺もしずに音を立てる。
ふと外を見れば赤茶色の5つに先の別れた葉が吹き飛ばされて行く。
もうそろそろ月が顔を出すころに確か彼は議会だと言っていた憶えが彼女にはあった。
ふと、彼の机の上に置いてあった真っ白な紙をぐしゃりと握り潰す。
「どうせ…言う気なんて無いんだろ…っ!」
幸い何も書かれていない、紙の白さだけが彼女の目に映った。

あんた自身で聞かれたら都合が悪いか、私が聞いたら苦しむか
きっと必ずどっちかだと思うから
「…―――パイン?!」
そう言ったのは、今丁度部屋に入ってきた驚いたその彼。

「大丈夫かい?いきなり倒れて…まだ顔色が悪いよ」
「…あのさ……」
力なく膝から力が抜けて前に身を倒すと彼が走り寄って肩を抱く。
「はな…して……」
「え?」
「教えて…あのときのこと……」
「……」
いつだってそうだ、教えてくれないのは聞かなくてももうハッキリとした事実。
ほら見て、あんたの目はもうとっくにそう言ってる。

背に手を廻してぎゅっと抱き寄せた。全く表情なんて見えない状態で彼は彼女の背をなぜる。
風のように優しく、また意味有り気に。
「教えてもいいことかどうかくらいは、僕自身で決めたい」
「私が聞きたいって言ってる」
背に廻した手を解いて、肩に手をのせて彼女を見つめたその表情は実に今にも泣きそうな顔に彼女には見えた。
「勝手にいなくなってさ、勝手に教えないって言ってさ…―――」

頬に唇を落とそうと顔を下げると、ふっと顔を横へ向けて拒む。
両手で彼を突き飛ばして言い放つ。
そのままガツガツと歩いて彼の背の後ろへと歩いて行く。

聞きたくない、聞きたくない―――
「謝るなら、来てよ…!」

すれ違った瞬間の風を切る音
無表情な君の顔
ねぇ本当のふたりはそうじゃないでしょう?

幾重に重ねた「とき」も、吹き付けた風なのか優しさなのかも分からない「かぜ」も
自分のしたことならいつまでも覚えていればいいのに。
なら…、こんなことは起きなかった。

私が「それ」を忘れなきゃいけない理由なんて一つも思い当たらない…
「君は…それで何もかもをもう理解してるつもりなの?」
そう言って彼女の左腕を強く引いた。

「僕は君の為に言ってるんだ」




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UP '04/12/02