いっぱいのいっぱいの言葉。
誰もいなくなってしまったこの場所で。

うん。もう空っぽになっちゃったホーム。
何もないかと思ってた、もう何もかもなくなっちゃったと。
そう思ってたけど…

確かめてみたく、なったの。
こんな、日こそ。…ね?


Go, our home




「やっほーっ!…って、誰もいないか、やっぱ。」
リュックが訪れたのはアルベドのホームの跡地。二年前にその姿を失ってからもう二年。
誰もそこで暮らそうとは思わない。誰もそこでずっと居ようとは思わない。
そんな、今の姿に変わり果てたアルベドのホームにて。

「全部、もう…なくなっちゃったんだもんね」
リュックは下へペタンと座り込むと、砂漠の乾いたさらさらとした砂を手でぎゅっと掴んだ。指と指の隙間から静かに砂は流れて行き、手を広げると虚しくそれはすべて流れ落ちて行く。


強く日ざしが照りつけるそこはまもなく太陽が天辺に辿り着こうとしていた。もうそろそろビーカネルの中でも一番暑い時間へと差し掛かる。
空は澄んだ蒼で彩られ、ちぎれちぎれの雲がぽっかりと浮かんでいる。

リュックが立ち上がり、かしゅ、かしゅ、と砂たちは鳴きながらリュックが踏み締める砂として彼女を運んだ。そのあと砂たちは先程鳴いたという仕草は見せずに再び静まり返る。
その瞬間に、しゃしゃあ、と風たちが砂を細々と何処かへ吹き飛ばして行った。向こうではカモメの鳴く声。
「うん……バイバイ…」



「えっとー、確かここがあたしんちだったトコでしょー。それでここがお店がいっぱい並んでて買い物行ってたとこでしょー…」
うん、もう何にも残ってないんだけどね。


とある1日。依頼が一件も入っていないカモメ団はいっそのこと遊んじゃおうということで、お休み。
ユウナはビサイドへ行き、パインは「言って何かなるのか?」のこと。
リュックはどこへ行く宛もなく、ビーカネルの砂漠へとアニキに飛行艇を送らせたのであった。
……思い出すのも、悪くないよね。
もう、思い出して後悔することなんて、ないんだもん。

空を見上げれば、カモメが一羽。ここではあまり見られない色鮮やかな羽根を纏ったその鳥は羽根を下ろしていた果てしない砂の海から身を浮かせ飛び立った。
探しても何も見つからないこの場所から、また飛行記が始る。
閉ざされたその記にペンが下ろされた。染み出すインクを紙が拒むことさえなく受け止める。
じわじわと、眼の端から太陽の差し込む強い光が染み出した。


「うわっ!」
「きゃっ!」
彼女の後方からいきなり、咄嗟の叫び声が虚しく響いて消えた。に、しても何かがおかしい。
きゃ、そう悲鳴を上げても何も返って来る声も、溜息も、音すらだってない。
何も、自分には打つかってはいない、何も感触さえなかった。なのに、…やたらものすごく近くでその声が聞こえたと思われる。
もしかしたら有毒のサソリが出た?!などと最悪の状況も考えながらも、恐る恐るその声が聞こえた後方へと踵を返した。
「……どしたの?」
「躓いて転んだら頭がはまった」
「…もう、らしくないなぁ……」
最悪の状況でも何もない。きっと、これが平和の日常である証。


その声の主は、現在もマキナ派のリーダーをやっていると思われるアルベド族の少年・ギップル。
これでもか!と言うほどに彼の髪と髪の隙間に砂は入りまくり、念入りに砂を落とそうと手で髪の毛を掻き回す。
「そんなの水に入るかとか、しなきゃ全部取れないよ」
「……そっかなぁ?」
「うん」
ぱさぱさ、と彼女も弱く彼の頭の砂を叩き落とすと、そう言って腰に手を当てた。
「じゃ、オアシスが近くにあるから行くかっ!」
「はぁっ!?」
「俺は行くからー」
「は?はぁっ?!ちょ、ちょっとぉー!あたしを一人で残してかないでよっ!」

「一人で寂しいのか?」などと言いながら、二人で広い砂漠の中を歩いて行く。
何もかも、「そんなんじゃなくてー!」と、ずっと彼女は否定ばかりしていた。
また風が吹いて、砂を吹き上げた。
…もう、折角の休日だっていうのに!


砂漠の中の小山も大山も越え、オアシスがチラリチラリと視界に入り始めた。
暑さの所為か、地平線にはうっすらともやもやした蜃気楼ばかりが浮かんでいたところに変化。
見えただけでも、まるで瞳に水が浮き、潤う程であった。
彼らは何時間歩き続けた事なのだろうか。

始めはスキップも出るほどの軽い雰囲気と軽快な足取りでオアシスまで向っていた。
でも、やはりオアシス。そんなにポンと見つかる物でもない。
いざとなればセルシウスを呼んで救出はしてもらえるものの、そこまではまだやらなくてもいい状況であるし、アニキにギップルと一緒にいるところを見られたら、また何を言われるかが分からない。
「ねぇ…、さっきオアシスが近くにあるって言ってなかったぁ?」
「大丈夫だって!俺的地理感は最後まで俺を裏切らないっ!」
確かに、最後の最後までは裏切らなかった。

「やっと着いたよー…」
「最後までは裏切らなかっただろ?俺の地理感と第六感」
ふぅ、と彼女は呆れたように深い溜息を付いて「ホンっトに最後の最後までだけどねっ」と彼の言葉に続いて言った。
そよそよと、珍しく一つ風が流れて、湖の水面が小さく角張る。緑色の空き瓶が一つ流れ着いていた。
よく地平線を見れば、発掘をしているキャンプが微塵子程の小ささではあるが、見えた。
「あー、涼しっ!」
足を湖の中に少し入れて涼む。湖の底を覗いてみると、ふと、キラリと輝くものを一瞬だけ彼女は見た。
うーん、と考え込んでから、首元に巻いてあるマフラーを捲り上げ、水中へと潜っていった。
「あっ、おいっ!なんだよっ?」
子供だましのプラスチックで作られた、キラキラと光るゴージャスな装飾が施されているアクセサリー、
ゴムで作られた、奇妙なカタチに膨らんでいた風船のような人形。
そう深くはない底に、子供たちが遊び、使っていたものがたくさん沈んでいた。
すると、水面上に、底から数個の泡が昇ってきて静かに流れては消える。

「これこれー!実験くん37号!」
「うわー、古っ!」
ドロドロとした、スライムのような(実際、昔はスライムだったのだろうが)
緑色をしたドロドロを彼女は手のひらの上にのせて水面上へ顔を出した。
「そーいえば、ギップル、昔はマキナとか、そーゆーのじゃなくてスライムとか、変なヤツばっか作ってなかった?」
「実用的じゃなかったなー」
マジックで描かれた黒い目が伸びて、ドロンと縦に長く伸びていた。よく見てみれば、本当にその眼は怖い。

「…なんでこんなとこにあるんだろ…、風に吹かれて飛ばされて沈んでたのかな?」
寂しかったよね、もう大丈夫だよ。
「37号もきっと嬉しがってるんじゃねーか?シドの娘に助けてもらったんだし」
とぼけた顔のままずっと動かない実験くん37号は彼女の手の中で包まれている。
クスクスと彼女が笑い出して、そのとぼけた顔を見ていた。

「だって、おまえも変わってないし」
「あっ、ギップルが変わりすぎなのー!」


「もうないけどさ、こうやって残ってるんだなって」
「そんなことない。ホームはあそこでもないし、ここでもないけどまだ残ってるよ」
ずっと、昔みたいに暖かくって、なくちゃならない。
こういうのが残ってるから、あたしたちもまだ残ってる…のかな?

想い出してみると、いっぱいの優しさの言葉に包まれてたんだね、あたしたち。
まだまだあたしは全部、昔にかけてもらった楽しいコトも嬉しいコトも覚えてる。
分かんなかったら、言われたら分かるのーっ!
あたしの中にも、きっとここにも残ってる。優しさの言葉。
沁み付いた優しい言葉たち。

いつでも優しい言葉をもう一回聞きたいからって想い出してもいいよね。
…あのね、ギップルが今は優しくない訳じゃなくて…!正直じゃないのっ!
そーんな優しい思い出ばかりに浸かっててもしょうがないかもしんないけどーっ、
聞こえるの、あたしのホーム。
「今からでも行けるよ、あたしは……ね?」
「じゃ、探検だー!」
「おう!ギップル隊長っ」
目の前に立って、遠くの何があるかは全く予想もつかない場所へと彼の指差す手。
ぴょんと一歩跳んで、暖かい彼の左手を手で繋ぐと、彼を抜いて走り出す。
いそがなきゃ乗り遅れちゃうよー、そう言いながら彼へとニッコリと笑顔。それに、もう一つつられて笑顔。
風が吹き込み、砂が高く立つ。そこに、二つ影が走って行った。
引かれて走っていた後ろの影が、やがて前の影を追い抜いた。



こんな休日でもいいかもしんない。
昔のこととか、思い出して。
ココロの中に、いつでも帰る場所があるんだ。
いつでも行けるよ、あたしたちのホーム。

見えないココロの中には、
あたしたちのいる場所と、あたしたちのホーム。
チケットなんて、ただ一緒にいること
ただ、チイを感じるだけで。




fin.





ギプリュ派の企画で投稿させていただいたSSです。
お題が「オフの過ごし方」でした(実はいっっっちばん「当たりたくねぇよっ!」って思ってたお題だったので、大苦戦)
本当はこの話にするつもりではなかったのですが、気付いたら投稿締め切り間近だったので、
急いでこっちの話を書き上げて、本当に書く予定だった話って…なんだったっけ?
いつも、「ギプリュで甘甘を目指す!」って心で目標にしてるのですが、なかなか甘甘になりません。
だ、誰かどうすれば甘甘になるのか教えてくださいっ…(涙)


site UP '04/11/06