忙しい日々は毎日続いてる。 結局「あたし」は時間を止める力なんて持ってる訳がないし、 ユウナんみたいに世界を変えるようなことはできやしないんだ。 でも、あたしは思うの。 時間は止められないけど、その時間の流れにただ乗ってるだけじゃダメだって。 そして、その流れをただただ受け入れるだけじゃダメなの。 世界はあたしだけのものじゃない。 でも「あたしの時間」はあたしだけのモノなの。 探求的好奇心とその勇気 「リュックおねーちゃーんっ!このマ…ま……?」 「はいはい、マキナ、ね」 「そうそう!マキナっ!!なんだカ、動かなくなっ…ちゃって…?」 リュックと、金髪翠眼の5、6歳の少年が片言の共通語で展開している会話である。 また、リュックの周りには、彼女自身もそうであるような、少年のような金髪翠眼の小さな子供達が10人くらい居る。 『政府』の三本柱ともいえる三人の人物の中に、リュックの“彼氏”は居る。 彼氏という彼氏ではないが、お互いのことは誰よりもよく知っているつもりだった。 先日『政府』のその三人で取り決められた「『政府』組閣記念祝賀パーティー」を開催するため、彼はここ3,4日、このジョゼ寺院の自室にこもりっきり。 彼女が最後に彼の姿を見たのは、深夜小腹が空いたか、寺院の食堂からパンを1つ持って自室に戻っているところだった。 彼は、接触をとりたがらない。どうやらちゃんと食事は摂っているそうだから、彼女は何も言わない。 「これから自分の部屋にこもるから、元マキナ派の方はよろしく」と言い残したまま自室にこもってしまった彼に、最初の1,2日は「早くしてよー!」と接触を取りたがらない彼に彼の部屋のスフィアに繋いで言っていたものの、ばつが悪そうな顔をして「ごめんな」という彼の顔を見た彼女は毎回言葉を失う。 やがて「ま、頑張ってるんだから、しょうがないか」と思うようになり、それ以後通信はしていない。 本土に移住するアルベド族は最近急増している。何といっても、ビーカネル島という厳しい環境で育った彼らの身につけたノウハウは知的資源として、スピラ本土では高く売れる。それに、アルベド族本土展開によって、それ以外の人々では成りえなかったことさえ、成功したことも多数ある。 そんなビーカネル島から出てきたアルベド族は、一番最初にジョゼ寺院に身を寄せる。『政府』の三本柱の中にアルベド族のギップルがいることもあってか、『政府』から今までのアルベド族によるスピラの技術発展の功績に免じて、本土に移住するアルベド族は本土に着いた2,3日はジョゼ寺院に無料で滞在できる、という法令もできた。 今居る子供達は、そんな移住してきた彼らの子供達である。その面倒を看る役目を任されたのがリュックだった。 「リュックおねーちゃんのおサルさんが〜っ!」 「あっ、もうギキ!やめなってばーっ!!」 「このマキナがねー…」 「あー、ちょっと待っててね!とりあえずこのおサル…って、こらぁー!!」 「うわーん」 「もぉ…!待ちなさぁーい!!」 子供たちといるときはほとんど「調教師」のドレスフィアで子供たちと接している。 彼女のペット、ギキを見ると子供たちは泣いたりしてしまうが、やがて笑って彼と遊んでいる。 ユウナが言っていた、「平和な日々」というのが幸せに感じてしまう。前まではあんなに拒絶していたものだというのに。 でも裏返せば、ギップルがいる此処だからできることなのかもしれないけれど。 「ぐぁー、終わったー」 その数日後、自室からギップルが目の下にしっかりとクマを作って掠れた声でそう言いながら何日かぶりに出てきた。 「うおっ、寒っ!」 暖房マキナでぽっかぽかに温まった自室から出てきたギップルはエントランスのすこしヒヤッとした空気に身震いする。 「マキナ使いすぎだからだよっ!ほら、ギップルの部屋の前にかけてあったコートっ!」 「おっ、サンキュー」 寺院前の子供たちが、ギップルが自分の部屋から出てきたと聞きつけてパタパタと足音をたてながらやってきた。 「ギップルにいちゃん!おかえりーっ」 「こらっ、一気にくると重いだろっ」 満面の笑みで足元に寄ってきて抱きついてくる子供たちの頭を撫でながら「元気だったか?」と子供たちに訊いている。そんな、幸せそうな彼の笑顔を見て、ついリュックも微笑んでしまう。 「ねぇ、雪が降ってきたよーっ!」 「ホント!?雪って見たことないっ!」 「見に行こうっ!」 寺院前から大きな声を上げて走ってきた女の子はそう声を張り上げながら冬の訪れの象徴「雪」が降ってきたことを告げる。その声をききつけ、子供たちは寺院の中から外の空を見上げた。 「ギップルっ!雪だよ!」 「…雪、か……、困ったな…」 「どうしたの、ギップル?嬉しくないの?」 アルベド族なら泣いて喜ぶほど見るのが嬉しい雪を見て、彼は眉間にしわを寄せ黙り込む。 「これからベベルに行かなきゃならないんだ。会場の打ち合わせで」 「えぇーっ、ギップルおにいちゃんまたどっか行っちゃうの?」 「ごめんな、どうしても行かなくちゃならないんだ」 また悲しそうな顔をして、子供たちの頭を撫でている彼の背中を見て、どうしようもできない想いがこみ上げてきたようだった。 「じゃ、このホバー借りてくわ」 寺院の外を指差して、エントランスの第三マキナ研究班のリーダーの女性に言う。 「はいはい。とばしすぎるんじゃないわよ」 「わかってるって」 女性がポケットからホバーのエンジンの鍵を取り出すと、それを投げてギップルがキャッチする。 「シドの娘ちょっとこーいっ!」 「なにいきなり呼び出してんのさー!」 寺院の裏に停めてあるホバーのエンジンの準備をすると、彼はリュックの頬に軽くキスしてコートを投げ渡すと、ホバーに乗る段差をあがる。 「いっつもそんなカッコして風邪ひくなよ」 「なっ、なにさーっ!べっ、別にへんなカッコじゃないもんっ」 「おまえも二日後ベベル来いよ、って、忘れてたっ!」 また段差を下ると、ポケットから何か取り出す。 「っていうかあたしもベベル行くのっ!?ってどこ触ってんのっ!?」 リュックの首元に手を伸ばして、そのポケットから出したネックレスの金具をリュックの首の後ろで取り付けている。 「はい、これがあればいつでもベベル入れるから。俺達の有能な気の強い秘書さんが「特別な招待状作ったら、何時偽造されるか分からないぞ」って言うからな。ちなみにユウナ様とパイン先生とお揃い」 クリスタルに「S」が刻まれているデザインのネックレスで、彼の体温で温められて、とても暖かかった。 「じゃ、いってくるわ」 「うん。いってらっしゃい」 ホバーに乗り込むと、エンジンをかけて遠くへと走り去ってしまっていった。雪がぽろぽろとそらから零れている中、寺院の前の子供たちの下へと歩いた。 「雪って、どこから来るの?」 「ん?お空の中から降って来るんだよ」 訊ねてきた子供にそう答えると、子供たちは「お空からだってっ!」と騒ぎ出す。 「でもね、お空の中に入っても、雪がどうやって出来るかはあたしたちは見えないんだよ。だから、雪ってあたしたちの知らない場所から来てるんだよ」 へぇー!と納得した顔でにこにこしながら子供たち同士でいろいろと笑いあっている。 小さな頃はなにもかもが不思議でしょうがなかった。 ぜんぶあたしたち以上の存在で、驚きとかをくれた。 雪、ってね、あたしたちの知らない場所から降ってきてるんだよ。ねぇ、ギップル。 知らないことばかりのときは、全部がまるで宝石みたいだったね。 一緒に手繋いで、ちょっと遠くへ昔の機械のパーツを拾いに行ったりとかしてたね。 でも、今はギップルはすごく忙しそうで、いろんな楽しいことを見てない気がするよ。 疲れてるの?怖いの? 今やらなくちゃいけないことから逃げてるような気がして? ……、いつか、あたしたちはこの何気ない驚きっていうのを無くしちゃうのかな、すべてを知って。 そんなことないよね、いつでもあたしはギップルの姿に昔のギップルの面影を探してる。 一緒にいろんなものさがしてたときのギップル、今のギップルと全くそっくりだったの。 でもね、今は忙しそう。 忙しいのはしょうがないけど、この世界はあたしたちのものじゃないから この世界のいろーんなことに、あたし達は驚きと喜びを感じてる。……もちろんチイからもね。 もっとあたしたちは年をとったら、このこと忘れちゃうのかな、 子供みたいにいられないのかな? 「あっ、星がきれいだよっ!」 「あっ、ほんとだね。そうだ!ギップルはもう遠く行っちゃうけど、おんなじ星が見えてるよ!」 「お星様っ!ギップルに早くかえってね、って伝えてくださーいっ!」 そんな子供の正直なことばを微笑ましく思い、同時に泣きたくなった。 いられないはずが無いよ。 あたしたちは、いつまでもこの空と星の下で生きてるんだから。 この星、見えてる? fin. |