証明してよ、
いつかこの自分の気持ちが無くなる、そういう事を。


消えてしまう、そのときまで。




ずっとこのままが続けばいいと、そのときには誰もが思う。
私を見つめるその眼も、優しく抱き寄せてくれる腕も、今はずっと続いて欲しいという願望からか私の欲情を掻き立てる。普段なら拒絶してしまう程の不安に襲われてしまうのに、そのときだけは別の物へと成り代わって。

でも、もしもこの気持ちがなくなってしまう未来になるとしたら
消えてしまった場所にはそのあと何があるのかとか、消えてしまった気持ちは何処へ行くのかとか
かけがえのない思い出も、忘れられて消えて行く場所は何処にあるんだろうって。
思い出が消えてしまった私は、それで私なのか。そういうこと。
「バラライ。もしもさ、私がいなくなったらどうする?」
寝そべる黒い服を身に纏った彼女が映える白いベッドの上。その声にまるで呼び止められたかのように振り返り、彼女に視線を注ぐ彼。

彼女の右の、無理矢理に頬杖をつくように頬を置いていたその手。その右腕を伸ばし、彼女自身から先程の手を引き離してごろん、と頭をベッドの上へと落として息を吐いた。
チラリ、と彼を見てから企むように微笑んで首をかしげ。
彼が答える間が、まるで暇。そういうかのごとく子供のように脚をバタつかせた。


「例えばどっちかが死んじゃったときとか?」
「縁起でもないこと言うな」
「じゃあ、君が僕の事嫌いになったとき?」
「まぁ、そうだろうな」
バラライはふと微笑んで、黙り込む。そして一瞬で顔を引き攣らし、手に持っていた書類をバラバラと数枚落とした。
もちろん、顔はそのまま乱れない笑顔のままで。

「君は僕の事が嫌いなのかな?」
「ち、違うって!た、例えばの話で今は違うから…っ!」
彼女は手を勢いよく下へ押して上半身を起こすと、必死で違うと言うように両手をヒラヒラと横に振った。
「だから違うって!」



「んー、どうするかなんて今は分からないよ。その時にその時思ってたことなんだから」
引き攣らせた顔を元の微笑み議長へと戻してから、バラライが彼女に先程の問いの答を述べた。彼女はふぅん、と言ってつまらなさそうに顔を正面へと向けた。
「何?少しガッカリ?」
「何が」
「そっか」
「だから何っ?!」
答が分からないよりも、
答が分かってて損することなんてきっと多少少ない。

「じゃあ、僕が君を嫌いになったとき。そういう選択肢も?」
言わないで、そう私は一言も言ってないからバラライは悪いわけじゃない。
きっと、きっと私が悪いんだ。
少しの間止まったようなときも、一瞬静かになった外の賑わいも、まるで私を最低最悪の底に突き落としてるようにしか、思えない。
「…もちろん。」
全然そんなこと、思ってもなかった。

「大丈夫。そんなこと思ったこともないから」
一瞬、良かったと安心してた私が居たのは気の所為じゃない。
きっとそれを望んでて、せめてそう思うことで私を救おうとしたんだと思う。
「今は本当に、君が好きだよ」
まるで意識のない彼女に、そっと、一瞬口付ける。普通の恋人同士が会う度に交わすような、ささやかな口付け。
「…どう、なんだろうな……」


「まさか迷ってる?君が?」
「何に」
何にも聞く耳を持たないようにツンとした表情の彼女が、冷たく彼に当たる。それだけでなく、強い睨みで彼を視線から逃さない。
「さぁ、どうだろう。君自身で答を見つけて」
「なんて、無責任な」
寝そべっていたベッドから起き上がり、再びベッドへと腰を掛ける。すっと側に開いた窓から一瞬の風が、彼女の頬を擦った。

「人が感じる事なんか、人によってバラバラなんだから。」
「こんなときにロマンチストになって、どうする」
バラライがはは、と笑いながら、近くにあった椅子へと腰掛ける。但し、本当の椅子の座る方向とは逆の向きに座り、正面の背もたれに腕を掛けてもたれかかる。
彼女はいかにも機嫌が悪そうに瞼を落として手で髪を解いた。


いつだって、おまえはそうだ。
自分のことなんてこれっぽっちも教えてなんかくれない。
自分の思ってることも、私をどう想ってるっていうことも、全部。

「あんたってさ、何にも教えてくれないよな。いつも」
「人聞きの悪い。君がよく分からないだけ、なんじゃないかな」
「だから、あんたが私に分からないように接して来るんだ。」
彼女はまるで血相を変えて、バラライに怒鳴り付ける。さっきとは驚く程に違う声質で、最後に「そうなんだろ?」と付け加えて。

私には分からない。
私は、あんたの傀儡じゃないんだから。


「あんたはさ、今どう思ってるかとか何言いたいのかが全然分からない」
を嫌いになったら。今どうするっていうも言ってくれさえしない。
「さっきだって答えてくれないだろ。聞いても、あんたは何も言わない。」

教えて。私のこと、あんたはいつ嫌いになるのかを。
Tell me that when you hate me
Tell me what does it mean for me
「おいで」
椅子を正しく座り直すと、彼が一言そう言って彼女をじっと見つめた。嘘も冗談も、全く無い彼らしくはない顔つきで。
手を伸ばした。「おいで」と言ったその声はまるで強制を示しているような、迷いの無い声。
「ほら、知りたいんでしょう?何も言わないって、そう言ったよね、君は」
分からないって、そっちが言ったんじゃないか。

躊躇った表情で彼女がベッドから立上がり、そして彼の正面へと立つ。何故か自身に満ちていた彼女の迷わず、彼を捕らえている瞳が瞼を落として、ゆっくりとまた開いた。
「どうすれば、君は分かるって言うんだい?」
一瞬で、バラライが彼女を腕で引き寄せて、抱きしめた。
「ねぇ、パイン」
耳元で密かに、囁いた彼女の名前。
「泣かないで」
「君が嫌いになったことなんて、会ったことから一度も無いし、嫌いになるなんて思えない」
「あ…っ」
「それから、嫌いになる予定なんて考えたことない。だから…君の質問に答えることは、できない」

「分からないよ…、君にどう答えればいいのかっていうのが。全部」
ずっと私が好きでも、いつか嫌いになって捨てられる。そういう事が怖かった。
だから始めることすらできないのが私で、始めさせたのがあんただった。
「どうすればいいのかな、僕は」
彼女の顔にかかる髪を手で後ろへ流す。その手はどこかぎこちなくて、いつもより冷たかった。


「爪、伸びたな」
彼女が手で彼の手を包み、指で彼の爪の先を撫でる。
「最後に、君に触れたときから時間がだいぶ経ったんだろうね」
「すぐ、誰でも人は変わってく、だろ?」

人の心なんて、時間の流れと比べれば脆くて弱い物だ。
すぐに崩れて消え、それを糧として新しい物に生まれ変わる程、壊れやすくてすぐに変わってしまう。

「君を好きだった、いつかそう言わなきゃいけないときも来るのかな」
「変わる、んだからな」
君が好き、そういうことも何時の間にか変わってしまう。目にとまらない早さで流れてくこの世界では、こんなこと一瞬でほんの一時にしか過ぎないだろうと思うけど。

「君が好き、それが消えてしまうまで、僕は君が大好きで、君を愛したい」
ぎゅっと、彼女の背へ手を廻して、一つの隙間もなく、彼女の身体を抱きしめる。
「ど、…うして……」
「本当に君が好きでしょうがない。こんな気持ち、脆すぎて弱すぎる、けど…。」
それを知ってても、心の隅に留めて君を愛してしまう、それが恋なのだから。


「全部消えてしまう訳じゃない。思い出、きっとそうなる日が来るから」
思い出でも、現実でも、本当でも。いつでも、場所は消さない。
密かに君に想いを寄せていた、場所はあるから。

「思い出になるなんて、本当にいいことだよね。消えないんだから」
ただ思い出になってしまう、それだけのこと。
お互いを失った互いは、ただの思い出となるだけ。ただそれだけのこと。


「それが、言えない僕も僕だ。」
「そんな……あんたは悪くない…」
分かって。許して。
あんただけが悪いなんて、酷すぎるから。
「…分かって……」




一歩遅く花開いた桜の花の最後のひとひらが散り、
一足早い、初夏の到来を知らせた。




fin.





きっと、こんなシリアスっぽい話書いたのは初めてです(いちおうシリアスで…)
なんだったっけ、パインってゲーム中に「変わりたい」とか、
そうイメージがありますよね。
でも、変わるっていうのはプラスの面だけではなくて
マイナスの面もあるのかなと思いまして。。
それが逆に、今の自分はどうなるんでしょう?
っていうのがこの話の中心でゴザイマス(何?)

あ、最後の連の解釈ですが、「一歩遅く/一足早い」は、
桜と初夏の季節が分からなかったから(誤魔化し)
「花開いた桜の最後のひとひらが散り」
=新しい想いはできたけれど、でもその最後の一欠けらも終わり、
「初夏の到来を知らせた」
=違う季節(想い)の始まりを告げた。
こんな感じで書いてました(読んだら毎回違う解釈してますので、私(汗))
つまり、想いが変わるっていうのは世界のどこかで、
今も起きてるかもしれないということで、ちょっとした対比…?
桜が想い、変わってしまった、という意味なんですねー、実は。。。


UP '04/08/02