分からなくなるのは このときだけは何もかも。 反・法則的 「じょ、冗談じゃない!」 外はかつてない大嵐。スピラにこれほどまでも強い暴風雨が起きた事があるのか、と思ってしまうほどに風が吹き荒れ、雨水が跳び、木々は撓り、海は荒れる。 先程までは日が存在感を見せ付ける様に照り付け、肌に光が当たるだけでとても痛かった程。その太陽は長く濁った色の雲に覆われた。 「何の事?」 「だって…、セルシウスにも帰れない……」 それは外に出るだけでも危険な程。それを彼女への当てつけか、そうではないのか、窓がガタガタと勢い良く風が揺らした。 きっとセルシウスは雲の下には居られないだろう。墜落したりすることは無いだろうが、あまりにもこの状況では危険すぎる。 この日に限って、ちょうどカモメ団一行は何も仕事を引き受けなかった。 「ちょー久しぶりのお休み取るのっ!」とリュックが最近よく聞き慣れた言葉を朝から言っていた。 リュックはジョゼの方でマキナの開発のお手伝い、ユウナはビサイドでいろいろとお手伝い。 何も、彼女は行く場所はない。で、結局は彼に呼び出されて今に至るのである。 こんな風になるとは思いもしないある日の出来事。 「それが?どうかした?」 「だから…、私は何処で寝れば……」 「じゃあ、今日は僕もここで泊まってくから、君もここ」 その直後に、彼女はしっかりと彼の腹に蹴りを決め込んだ。 遂には雷までなる始末。今度こそセルシウス最大のピンチ。 雲の下に下りて、万が一でも雷が落ちてエンジンその他、機体の心臓部をやられたら一大事。 彼女には、また違うピンチ。 ピンチはチャンス、ときにはそうだったりもして。 「何もしないから」 「…したりしたらシメる」 そろそろ、晴れの日ならば日が暮れ、食事を食べ、ベッドに入る時間。 もちろん外に出られない彼女の食事も、きちんと用意して二人で彼の執務室で食べることになった。 本来ならば食事は厨房へ朝に報告された分しか用意されることはなく、緊急の数の変更はそうとうすごい事ではないと受けいられない。 議長の権力、というところだろうか。 彼女はひたすら苦笑いして、その用意された食事を食べていたという。 「はい。これがシーツで…っと、悪いけど寝れるところといったらそのソファぐらいしかないんだ」 「いいよ、別に」 彼女が真っ白なシーツを受け取ると、これ?と聞くように傍にあるソファを指差した。 彼が無言のままで小さく頷くと、彼女がソファの方まで脚を運ばせる。そっと、脚を止めた。 「あ、あのさ…」 「どうかしたかい?」 「バラライはどこで…」 「そのときはそのときで考えるよ」 目を端へ寄せて、瞼を落とした。 ごろん、と大きめのそのソファへと身体を横にする。 寝転がってもまだ隙間が開く程の大きいソファの上に横たわっても、彼が仕事をしている姿がまだ直視できた。 ぼっとしてそれをずっと眺めていた彼女がそのことに気が付くと、急いで彼のいる方へと背を向け、シーツを被った。 眠く、ない… 何度も寝返りをうっては、またすぐに寝返りをうつ彼女を見て言う。 「はやくしないと仕事終わっちゃうよ?」 「…何が言いたい」 ツン、と瞳を閉じたままで彼からの言葉に答えると、頭までシーツを被る。 「…だって、君が寝ちゃうと暇なんだもの」 「だから何っ?」 「ごめん、もう今仕事まとめて終わったんだけど?」 「……へぇ」 ガサガサと彼が仕事をしていた椅子から腰を上げて、彼女の横になっているソファへ忍び足で近付く。 「パイン?」 頭まで被っていたシーツを捲ると、するりと抵抗も力も無くシーツはソファの下へと落ちた。 顔をほんのり赤に染めて、捲った彼へ少しも目を向けずに瞳を閉じた。 「怖いの?」 「何が」 「何か」 彼女が目を手で擦りながら身体を起こすと、軽く彼女の瞼に唇を寄せる。 「…あのさ…私だって寝てる所見られるの嫌なんだけど」 「じゃあ、いっそのことこのままずっと起きてる?」 もしも私がいい、そう答えたらあんたは何がしたい訳? 「……よくない。何があっても寝させてもらうっ!」 ぐっ、とソファへ横になろうとすると、彼が彼女の腰へ腕を回してそれを邪魔する。 「駄目。暇になる」 「じゃ……そっちこそ早く寝ろ」 また、首筋へと唇を落とした。 カタカタと、風が窓を揺らし音を立てた。 「パイン」 「何?」 彼女の隣へと腰掛けると、優しく彼女を見つめる。 「もっと、近くに来て」 彼女の方を抱いた。 「…しょうがないな」 彼の肩口に背をもたれる。必死に顔が真っ赤になっているのを隠しながら、また瞳を閉じる。 …たまに、私が私のことが分からなくなるんだ。 いつもだったら絶対に拒絶することだって、いろいろあるけど… あんたの傍にいると、何故か暖かくて、 いつもの通りにはならなくて、ならないっていっても…私がそれが嫌って思うときとか。 この世界に数有る法則では、表せれない。 ただ、このままずっとしてたいって思うんだ。 ずっと暖かさに包まれていたいって。 奇蹟とか、言葉とか、もっと嬉しいことなんて私にもものすごくあるのに、 きっと私は今が本当に嬉しいよ。 奇蹟よりも言葉よりも信じたい。 この手の温かさ、本物…? 「あ…れ……?」 ぐっと、さっきまでかかっていた力が抜ける。 「…あーあ、大人げないな、いつまでたっても、あんたはさ」 彼がいつの間にか眠りに落ちているのを見て、ふいに口元が緩む。 巻きっ放しのバンダナを頭の後ろに手を回して結び目を解く。ぱさ、と落ちた前髪が鈍く光ると、彼女が苦笑いして瞼へと唇を寄せた。 いっつもいっつも、こう静かだったら苦労も何もしないんだけどな。 こう…、無防備すぎて。 でもいつもただ暖かく迎えてくれるだけで、本当は嬉しいって私も分かってる。 私、いつもそういう風でごめん。 「……大好き」 眠っている彼の顔へ手を添える。そっと、少しだけ開いた口へと口付ける。 もう、風も雨も、止んでいた。 まぁ、今回だけは特別。 いつも暖かく迎えてくれるってことのお返し。 誰も、私の今やりたいことっていうのは分からないだろ? fin. セレブスピラ投稿バラパイ作品第3団。 テーマは体温でした。 もう…さっきからずっとあとがきを連続で書いてるのですが(これで3つめ、しかもこれからシューレンの方も書きます) フォローしかずっと言ってないよなぁ…とか。 たしか、この頃からだったかな、好きな題名の趣味が変わったの。 これ以前の話と、これの後の話と、かなり一点が変わってます。 分かった人には25へぇ〜(古) site UP '04/11/03 |