もう聞きたいとか思わなかった、
どうしても分かってもらえないし、どうしても分からない。
そんなこと、手に取る程分かってた。


Catch Your Heart



朝の特有の静かさで、音も振動も伝わらないのじゃないかと疑う程にいつもより静まり返っていた今朝は先程から始る。
ベベルの白い朝もやの中を、どこかからか来た鳥たちがバタバタと羽ばたく音を跳ばしながら静かに通り過ぎて行く。その音でようやくこの存在(ばしょ)が今あるのだと気付かされる程に。


パインの額へと静かに唇を落とすと、彼女はその顔を歪ませた。それを拒み、無言のままで迷ったように眼を泳がせた。どのタイミングで震え揺れるその紅い瞳の行方が気になって・それでも考え当てる事は全くできない、そんな彼は彼女に優しく微笑みかけた。
「心配しないで」
そう、まるで言っているように。

鮮やかに彼の手に彩られるその時間(とき)たちが共鳴してざわざわと音を立てる。針が落ちて鳴るような限りなく小さな音も彼らはざわざわと鳴いた。小さな鼓動さえも通すその彼らは、何も悪気なくその「場所」という舞台を存在させていた。
先程の迷いは何処か。彼女がすっと紅き瞳を彼の方へと流した。


「なんで迷わないんだ?」
「迷うって、何に?」
知りたかった、どうしてあんたは私のそばにいてくれるのか。
聞きたかったんだ。どうしてあんたは私のそばにいることを迷わないのか。

ふと、自分がどこにいるのかとか、目の前にいるあんたはあんたで違う人じゃないのかとか。
静かすぎる場所にいるだけで、それだけで怖かった。

あんたと二人だって事、あんたが今朝私に感じさせてくれる。
だけどそれはあんたの本当の気持ちから感じさせてくれていている訳?
偽りだらけの世界に来てしまった、そう考えても不自然だとは思わない私もいたり。

いつもあんたは同じような言葉。
それがあんたの心からの言葉で、嘘じゃないか心配しすぎてる。


「バラライはさ、私といっしょに居る事。迷わない?」
「迷わないというより、迷おうとしてないから」
「どうして」

私だって、迷いたくない。
あんたに迷ってほしいなんて思わない。


「迷えないんだよ。一緒にいる事を迷う人なんかじゃないから、君は」
「よくそういう事言えるよな」
「お互い様です」
「何が」

どうしても分かってほしい、
いつまでもその眼に見てもらえるのかが心配。
不安なんじゃなくて、ただ怖いだけ。


そっと、彼が彼女の頬に褐色の手を触れさせると、それを受け入れる事なく冷たくそっぽを向いた。まるで拒絶するような行動でも、いつものように表情は全く読めないその態度。
「分かって、くれないかな?」


どうしても気持ちを伝えることなんてできない。
もし、伝えることができれば良かったのに。本当に君を愛しているということを。

君だってそのことを分かってるはずなんだ。
それでも。いつか君も分かることなんだ。

奇跡を起こせたってこれだけはどうにも叶わないこと。
それでも、叶えたくて奇跡を起こす理由になるのかい?
小さすぎて、それでも大切な事には代わりはないけれど。


「分からない?」
バラライが彼女の手を引いて、自分の方へと引き寄せる。彼女の頬が、自分の胸に落ちた。
「分からなくてもいいから、僕だって分かってほしい」


僕にだって、分からないことがいっぱいあることを。
君にも分からないことがあるけど、それを僕にも理解できないこと。

どれだけ近付いても全部君の事が分かる訳じゃない。
それでもすべて分かってあげたい。これは一緒なことを。



分からないから分かろうとしないんじゃない。
私だって迷って・言えなくて。


でも、握らせてくれるその暖かい手が
私を見てくれるその目が

これが嘘じゃないなら
私は分かるよ。


「ようやく、分かって来たみたいだ。」



fin.






ちょっくら修行します。


UP '04/07/17