本当に、たまに思うだけ。 雑務に追われて、ろくに家まで帰る時間がないこと。 休日でもその肩の荷が下りないこと。 可哀相だな、この男は、って。 静かな時間と静かな空間が交錯する夜に。 あした ただおとなしく仕事をしていれば良いものを。 この男はまともにやっても簡単に終わる訳無い仕事を真面目にやらない。 私にそれほど気をかけなくてもいいし、私はそんなに暇してる訳じゃないんだから。 「真面目にやってればすぐに終わるだろ?」 実はそんなこと無いって、本当は知ってるけど。 誰かに少しは頼ってもいいのに、この男は本当にそんなことしない。 文句くらい言ってしまえばいいのに、本当に何故かこの男はしない。 私の前ではしてもいいのに、弱音くらい吐いたっていいのに、してくれようとしないから、私はあんたに信じられてないんだなって、そう考えるときだってある。 あんたは、無理を見せたくないからって一言で片づけるつもりなんだろ、いつでも。 「今日」が今の一秒で終わってゆく。今から「昨日」となってゆくころ。 特別でも何でもない日が終わって、また違う日が始って。 「今日の議長サマはお家に帰らないご予定で?」 「今日もここで泊まって行くよ、終わる見込みが立たないし、明日も早くからきっとやらなければいけないし」 はぁ、と彼女もまた溜息をついた。 「いい加減にしておけよ、体調崩すことになるぞ」 「嬉しいな、珍しく君が僕のことを心配してくれるないんて」 眠そうな顔一つしないで、肘をついて私の方を見る。ニヤニヤとして少し卑らしい目つきで。 ああ、眠いピークを過ぎると、こう目が冴えてくるから嫌だ。 「……私は、ただあんたが仕事できなくなるって言いたいだけだ」 「ふぅん」 また気が抜けたような声出して。 「まぁ、それはそれでいいけど」 一体何が良いって言うんだ。 「でもそうなったら君は来てくれるでしょ?僕の所に」 「…勘違いするな、私はあんたの親でもないしそんな仲じゃない」 窓を通して空を見ても、何時まで経ってもこのままみたいな真っ黒。 「ひどいな、まるで僕と君は何も接点が無いような物言いだな」 「実際無いだろ…?」 「何を勘違いしてるの?」 ある日の深夜。スピラのベベルにて。 新エボン党議長のバラライの執務室に訪れる恋人、か客人かはそれぞれの受け取り方の違いで定かではないが(?) 今日も彼はこの部屋で就寝、というまるでそう筋書きが出来ているような毎日だとは彼女も承知はしていた。が、 彼は何一つ不平を言わず、態度も変わらず、はっきり言っておかしい。 人間睡眠時間が極端に不足すればいらついてくるというか、ムカついてくるというか。 周りにあたるはずではあるのだが、そういうことは何一つ無い。 彼女ですら、欠伸を漏らす。 「……あ、ごめん」 「いや、いいよ。君はいつでも眠りたいときに寝ればいいからね」 「…そんなこと、出来る筈ないだろ」 先に寝れる筈が無い。多く無理をしてるのはあっちなのに、それよりも先に難を逃れるなんてことは出来ない。 「寝てると、いつ間抜けな顔してるか分からないだろ?」 ソファから立ち上がって、少しフラフラとしながら彼の隣へ。椅子に腰掛けた彼の背中を抱いた。 「ん…、眠いけどあんたが寝るときまで待ってるから」 「そんなこと、しなくてもいいって言ってるのに」 この娘は、本当にこういうところが可愛くてしょうがない。 いつも冷めた態度のくせに、すぐに照れるところとか、 意外と気遣いしてくれるところとか。 眠いときでもやっぱり冷たいっていうか、ものすごく平熱が低いところとか。 きっと君にそんなことを言ったらそんなことない、って一言で否定されるだろうけど。 だけど、やっぱり僕は君のそんなところを愛してる。 「ねぇ、明日いつ起きる?」 「ん…なんだよ、いきなり」 少し頬を赤らめる君。 「何、何でそんなに照れてるの?」 「何か…そういわれると何か照れるぞ」 折角抱きしめてくれたのに、もう手を放さなくても良いじゃないか。 「いや、ただ…一緒に起きたいだけ」 「……だから、さっきからおまえ、問題発言に近いような、意味取り違えるようなことばっかり言ってるぞ」 「?、よく分からないんだけど」 ごめんね、僕そういうことは全然分からないから。 「君に起こして欲しいだけ。」 「私はそんなに早く起きれるって訳じゃないぞ」 「起こして」 「まぁ、早く起きれたら起こしてやっても…いいかな」 「ありがとう、パイン」 その日の一番最初に、大好きな大好きな君の顔が見たいだけ。 きっと君は「しょうがないから起こしてやった」って顔して僕を起こしてくれる。 「君より早く起きたら君をちゃんと起こしてあげるから」 本当は、嬉しくてしょうがないんだ。 何時の間にか、私は心の隅でそう想ってるに違いない。 次の朝が楽しみで仕方が無くて、そして何日か後の出かける日や誕生日までの日を指折り数える。 その日の始まりの朝まで、さよなら私の意識。 眠ってるときは、後悔も哀しみも忘れる。 ただ、幾度の「明日」もこえてあしたを迎えるんだ。 楽しみなその日を、心待ちにして、その希望だけを胸に眠りに落ちて行く。 放して、現実の世界から追いやって、私を。 すべて奇麗事な夢の世界に依存する訳でもないし、虜になる訳でもないけど、 そのときくらいは、過去を忘れさせてほしいな。 それはそれで大切な時間。 「駄目。私が先に起きる」 「もう、「うん」って頷いてくれたら問答無用で抱きしめてあげたのに」 「…遠慮する」 暖かな場所、すぐの場所にあんたが存在するだけで。 そんな、まるで可愛い女の子みたいなこと思ったのは初めてだけど、 近くにいるだけで、今日の夢に出てくるかな、って期待してしまう私はもううぬぼれてる。 大切な夢、大切な人、一度に存在すれば、本当に嬉しいなって。 春の暖かい風、夏の眩しい光、秋の開いた花、冬の冷たい雪も 夢の中では全て私のものだから。 「少し遅れたけど」 「何」 「誕生日おめでとう、パイン」 「…、そういえば今日だっけ」 「プレゼントは明日渡すから」 「もう一応日付は変わってるからもう今も誕生日なんだけど」 「それって、催促してるってこと?」 「もう……私は知らない」 心は止められない、 嬉しすぎてしょうがないから。 あしたの一番最初のおまえの顔も、私だけのもの。 ロマンチックだっていうシチュエーションも狙わなくてもいいから、 勝ち負けっていうのもないけど、私のこともそんなに考えなくてもよかったのに、 私はその「おはよう」って、いつもの其の声其の顔が欲しくて堪らないんだ。 今日はまるで夢の世界の中にいるような、 私の誕生日。 happy birthday to me, ハッピー・バースディ・トゥ・ミー もう一度眠ってあしたを迎えるまで、私の大切な日。 fin. |