大きな物語は終わりを告げ、
多くの人々はそれを喜ぶが、
これは、その後の物語になるのかもしれない。




After the lights




静かな部屋に響いたのは、重いドアが叩かれる鈍い音。
返事を彼は言うことはなく、暗黙の了解でそのドアは開かれ、入ってきたその人に彼は言った。
「ごめんね」
「いや、気にするな」
置かれたベージュのソファへ座るようにと、入ってきた紅い瞳の彼女を促した。
低めのテーブルを挟んで向かい合わせの同じソファへと、彼も腰を下ろす。
議長の計らいか、それとももう癖になってしまったのか、彼女が座った場の目の前には既にコーヒーの入ったカップが用意されていた。

「あんたが私を呼ぶっていうことは、本当に聞きたいってことがあるのか?」
「そう、聞きたいことがあってね。ヴェグナガン崩壊少し前…そうだね、僕ら3人が異界に入った頃、確か飛行艇で君たちカモメ団はコンサートをしていた、ということだね?」
彼らが異界という、結局は何処にあるのかも分からない場所へと行っていた頃の話。
スピラ中の人々は殆どが知っていることだが、彼らは知らない。
「そうだ。それで私たちはそこで初めて「レン」と「シューイン」という人を見た。もちろん、私たちは見た事が無かったからその人たちが「レン」と「シューイン」だということは言い切れないけど、まぁ異界のあの時の様子からすればそうだろう。ヴェグナガンの前の2人の最期、とでもいうか。」
「見た、って?」
一口彼女が用意されていたコーヒーを口に運ぶ。

「ユウナの歌姫のドレスフィアはレンだ。レンの想いっていうのがドレスフィアに焼き付いて、それがシンラが作ったスフィアスクリーンに投影された、と言ってた。そっちの方面には詳しくないから分からないけど、まぁ作った本人が言ってるからそうだろう」
まるで鏡のような、コーヒーに自分の顔が映ったのが見えた。それを何と無く見てソーサーにカップをのせた。
「……シューインが、ベベルの国家機密レベルの情報を握ってる、とでも?」
「もしかしたら、と思って。レンがヴェグナガンの場所を分かっているのは彼を追ってきた、ということで納得が行く。が、その彼は一体どうすればベベル兵の目を掻い潜って通ったのかということ。」

「毎回少しずつ変わってるけど、昔からベベルの兵の配置には特徴があってね。それを調べればそんなことは簡単なんだけど、その情報が何処から漏れたのかということ」
「へぇ、それが漏れたということは、違う漏れてはいけない情報も同時に、漏れた、っていうことか」
「知られていけないことは誰にも知られないようにベベル全体を操作する、それが一応僕の仕事なんで」
「昔のことであっても…か。随分エボンはまだベベルの実権を握ってるんだな」
「その通り」


「そんなこと、私なんかに言ってもいいのか?私はエボンに忠実な人でもない、それに全く関係無い訳でもない」
「君なら…秘密は護ってくれるって信じてるから。それに、君のような立場だから言えるんだけどね。君はエボン側でも同盟側でもマキナ派側でもない、それでも敵じゃない」
「丁度扱い易い、っていう訳か」
「人聞きの悪い」

カップ一杯分のコーヒーを飲み終えた所で、彼女はとても疲れたような顔でソファの背もたれに背を預ける。
「それで?その話の続き、あるんだろ?」
「困ったな、君にはそこまでお見通しかい?」
「一つ予想はついてる、確かとは言えないけど」
「そうかな−−−党の上層の方から司令が来てる。至急、そのドレスフィアを消去しろ、って」
「!?……なんで…」
「さぁ、党の上層は心配症の人が多くて困ってるんだ。あのコンサートのときに映し出された映像で、もしかしたらここまで気付く人が誰かいるかもしれない。そして…、その漏れた情報を手に入れてしまえばエボンはどうなるか分からない。」
「そこまで心配する必要は無いだろ。」
「あはは、今はこの前のトレマ元党首の件についてもあるからね、エボンは今ガタガタで、いつ崩れるか分からない状態なんだ」
前の事なのに、今問題が起きているなんてね、と彼は苦笑していた。

「そういうときにどうにかしろよ、議長。」
「議長は議長なんだけどね、実際に決定権があるのは前からエボンの上層にいた僧官、それに老師の側近、伴侶とか、そういう人たちなんだよ、実際。」
「青二才には実権は握らせない、そんな考えがまだ在ったか。」
「まだ古臭くてね、エボンは」


「お前もまだいろいろと大変だな。正直、これから立て直す方が大変だと思うけどさ」
「そうかもね。で、君も何かやってるからここに来たんでしょ?僕に出来ることがあるなら聞くけど?」
彼女はふっ、と微笑んで脚を組む。
「物分かりが早いな。まぁ……今私は本書いてるんだ。アカギ隊とか、ヴェグナガンについて。それが一番良い方法だと思ったからさ」
「それで?僕への用事は?」
まるで何か自信がありそうな紅い目が見つめる先の一点は、彼の金色の瞳。
「ベベルとか、エボンのこととか、そういうことが書かれた本を貸して欲しくてさ。まずはエボン寺院についての基本概念、それからの方が遥かにまとめ易い」

「さすが。2年前から変わってないよ、パイン」
クスクスと、何かを思い出したかのように彼が笑い始めると、むっとした表情で彼を見つめる。
「何だ」
「いや、だって訓練後のレポート、一番書かなくて良いはずの君が一番真面目に書いてたし、書いてないはずなのに何故か書いたって提出先には記録してあるし」
はぁ、と彼女が特大の溜息を漏らした。
「何回私がそういうことしたか。まとめたけど寝てる間にサソリにズタズタにされただとか、雨に流されただとか、そういう嘘、私がついてたって知らないだろ?」
「あ、そうなんだ。」
「提出が義務づけられてたときは私がでっち上げてたし、それにギップルのは何度訂正してから出してたことか」
「へぇ、初めて知った」

「で、貸してくれる?」
ふっと、微笑んだのもつかの間、彼女はまた機械的にそれを聞くと、彼は小さく溜息を吐いた。
「うん、いいよ。」
「で、なんでそんなつまらなさそうな顔するんだ」
ジロリと彼を見ると、何も分かってない、と彼女に言うように顔を横に振った。
「それとこれとは関係ない、…それくらいは分かって欲しいなぁ」
「悪かったな、そんな人間じゃなくて」
様子を見て、全てを読み取る、そんなことがた易く思えるような議長様とは違うのでね。


ソファから腰を上げ、近くの本棚にあった本をそう見ることもなしにひょいと硬い背表紙の本を持ち彼女の目の前へ差し出す。
「殆どのエボンの記録、ベベルの昔の出来事、アカギ隊概要、この情報があれば困らないと思う」
「そう。ありがとう、バラライ」
さっと彼の手から本を奪い取ってしまうと、ふと思った。
「で、その「殆ど」を私に渡すなんてこと、議長としてはやりすぎじゃないか?」
「そんなことない。それ以上のものを君にもらってるから」
驚いた顔で彼女は自分を指差すと、彼はいつものように微笑んで頷いた。
ずっと考え込むが、ずっと彼女には分からないままで。
「まぁ、あと短い期間、僕の立場役立ててくれると嬉しいよ」

「ああ、…聞いた。議長、やめるんだって?」
「いや、議長は辞めないよ。一応エボン党の議長をやらせてもらってるってことは僕としても気に入ってるからね。」
彼が、また再び彼女と向かい合うソファへと腰を下ろす。
「いずれ君も聞くだろうと思うから言わない。でも僕はね、アカギの後から今までここまでくるのが大変だったけど、それでもそれが無駄じゃないって思ってる、後悔してない」
「それはそれは。アカギの頃とは大違いだな」
「それは君も一緒さ。見違える程だよ」
「……?」


「綺麗になったね、本当に」
言われた彼女は真っ赤になった顔を両手で覆って、下を向く。言った言葉も刺を持っているようだった。
「冗談はよせ…あんたらしくないぞ」
「冗談?らしくない?いや、僕は別にそのまま言ってるだけなんだけどね」
あたふたと、焦ったように目を泳がせた。
「らしくないのは君じゃないか?きっと、恋でもしてるんでしょ?」
「してないっ!!」
馬鹿にしたようにくっくっ、と彼は笑う。また、彼女はそれを見てひたすらにそっぽを向いてしまっているだけ。

「まぁ、それは置いておいて。とりあえず、議長の筈なのに部外者の君にこんなに状況を漏らすのはこういう理由だけ」
ゆっくりと立ち上がって彼女の前へ歩き寄ると、彼女の額に指をついて顔を覗き込む。
「分かった?」
「一生分からない」
「そう、それはお気の毒で」
「気の毒?何が?!」

「たまには党にも顔くらい出してよ、本当はただそれだけ言う為に君を呼んだんだけどね。」
彼女の銀色の髪に頬を摺り寄せ、耳元で囁く。
「馬鹿…そんなことで呼ぶなっ……」
勢い良く彼を突き飛ばすと、受け取った本を抱え、部屋のドアへと手を掛ける。
「あんたの所には本を借りに来るときしか行かない!ただそれだけ!!」
彼はにっこりと笑って「ありがとう」と言って、彼女を見送る。

彼女の背を小さく手を振って見送ると、彼女はそっと振り返って彼の様子を覗う。
「素直じゃないなぁ」と思いつつもまた微笑むと彼女は照れた様子でまた背を向けた。
カチャン、とドアの閉まる音が部屋に響いた。


ようやく、2年前のことがなんとかなって、
スピラにも一区切りがついたけど、
まだ何も終わってなんかいないよ。
どうやら、これからも君とは付き合いが長くなりそうだ。




fin?







久しぶりのあとがきです。(そんな気がしただけ)
sweetboxの「AFTER THE LIGHTS」でも聞きながら日本語訳でも読みながら。
母に超無理矢理買っていただいた(笑)アルバムのきっとリード曲の
「After The Lights」から取ってしまいました題名でお送りしました。
この話を書いてるとき、意味も無くミッ○ーの耳がついたサンタの帽子を被ってて。
家族に
人間だということを怪しまれました。
バラパイになりきってないバラパイだということを忘れないで読んでいただけると嬉しいです。


UP '05/01/09