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最近、絶対に 絶対にアイツの私を見て……、子供としか見てない! 千夜一夜 未だに対立心が少しだけではあるけれど残っている新エボン党と青年同盟の中立を保つマキナ派の主催による、寒いのだから騒ぐべきだ、というのがコンセプトで出来てしまった今日という日は。 昔使われていた暦の始まりを彼の誕生した年?そして今日は彼の誕生日?だとかいう、古い書物から読み取れたらしいのだが、結局そんなこと関係なくお祭りごとが好きなアルベド族。 新エボン党と青年同盟を無理矢理「共催」ということで手伝わせたり、「大召喚士の彼女」たちや、彼女の仲間も手伝わせたり、巻き込んではドタバタ騒ぎを起こして、とても「アルベドらしい」準備になったが、それなりに他の人々は期待していたようだ。 マキナ派のリーダーの彼は「終わり良ければそれで良し!結果オーライっ!」と言っていたが、他の散々迷惑を掛け続けられていた人々は彼に溜息を吐くことくらいしかできなかった。 イルミネーションが飾られ、その光を目で伝っていってもまるで終わりが見えない。 街の中ずっと張り巡らされ、上から見れば「何か文字が見える?」と思ってしまうくらいだった。 そんな様子が一部、窓に切り取られて見えるこの部屋の中にはただ二人。 どの建物だって全く人気は無い。何故、何時の間にマキナ派がそれほどの権力を持ったのかは知らないが、今日は何処の誰もが仕事も休み。たとえどれほど仕事が残っていようが、忙しい仕事であろうが、仕事場に行くことは許されてはいなかった。(外に出ている出店は抜いて、だが) が、この二人だけは何故か新エボン党本部の執務室で外からの賑やかな声を聞きながらソファに座る。 「外に、行かなくてもいいのか?」 腰の辺りまでかけたブランケットを、腹のあたりまで手で引き上げる。座って平らになっている腿にのせた本のページを、また一枚めくった。 「あー、あんまり行きたくなくて」 隣に寄り添うように座っていた彼が、先程まで眠っていたからか眠そうな目を擦って言った。細く開いた金色の瞳から見えたのは、以前より柔らかい表情で笑うようになった彼女の姿。 「ヌージがいるからか?」 「そうかもね」 はぁ、と大きな溜息を彼女は吐いてから本を閉じる。 「いい加減に、ヌージの事は許してやれって。前の事だし、しかもあれは事故だろ?」 一度だけ彼の背中にまだ薄っすらと残っている弾丸の痕を見せてもらったことがあった。きっと今後、消えることも無く彼の背中に深くそのまま刻み込まれたままであろうその傷はヌージが作ったといえばそうなのだが、でもヌージが作ったとも言い難い傷。 「うーん、そういう意味じゃなくて」 「はぁ?一体何?」 それ以上、彼女には全く思い当たる点などなく、珍しく彼が躊躇い、戸惑うような表情をして、まるで子供のように考え事をしている様子を見て、また溜息をついた。 「……大人げ無いな…」 「それに、外に行かなきゃいけないってことも無いだろう?」 彼女の手から本が崩れ落ちて行く。彼女の腰に手を廻してすっと抱き寄せる。 彼女の額に唇を寄せ、口付ける。 「僕はずっとこうしてるだけで満足なんだしね」 「……馬鹿」 右手で本当に軽く肘鉄を食らわすと、またブランケットを引き上げた。 「さて。じゃあもうそろそろ外に行こうか?」 「……?ヌージが居るから嫌だったんじゃないのか?」 彼女の腰に廻していた腕を解いて立ち上がると、取り敢えず彼女の手を引いてソファから立たせる。 「もうそろそろ管轄変更だから。丁度僕はこれからベベルの見張りだからね」 あまりにも子供っぽい彼の答に再び溜息。 「だから、なんでそんなにヌージが」 「君を傷付けたから」 一瞬ほんのりと顔が赤く染まると、焦ったように言い返す。 「でも、あれはシューインが…」 「いくら乗っ取られてたっていっても、僕は君を傷付けるようなことはしない」 そう言って、「でしょう?」と言って彼女の額を人差し指で突いた。 むっと怒った表情で突かれた場所を手で覆うと、「馬鹿!」と一言、大声で怒鳴り付けた。 外は本当にありえない程の人込みだった。 このスピラの一体どこにこれだけの人が隠れていたのか、それすらも見当が付かない程、出店が並び、綺麗に飾られた「ツリー」やイルミネーションが続く、人だかりの道。 彼はそのまま彼女の肩を抱いて人を避けながら進む。過ぎ行く人々の隙間からたまに見た憶えのある人が覗く。しかし、そんなことを確認する前に、彼は何をあてにか、そのまま先へひたすらと突き進む。 「あっ、あのっ…、えーっと……?」 彼女が話し掛けても彼は聞きとめる気が全く無い様に、ずっと進み続ける。 黒い空からは白い粉が降り出す。ベベルは比較的北に位置しているため、他の地域よりは早く雪が降り始めるとは言うが、もう降り始める季節だとは思ってはいなかった。 小さな頃から好きだった、 滅多に降ることのない雪が手に乗って 水に変わる瞬間。 「うっ…わっ…!」 やっとの思いで人込みを抜け出すと、大きな大きなモミの木に、これでもかという程飾り付けされたキラキラと光る玉、それに降り出したばかりの小さな雪がほんの少しだけ積もっていた。水に変わることも無しに。 レンガで作られたその木の枠へと彼女と二人で無理矢理座らせると、しっと指差しを立てると、彼女の口を押さえる。 彼の名前が呼ばれる声がした。きっと、管轄だというのに、所定の位置に彼が居ないことに気付いて彼を捜しているところなのだろう。 つまり、彼は結局お仕事はさぼり。そして彼女の傍にいる。 「へぇ。あんたの弱み握ったな。勝手にさぼってること」 「別に僕は痛くも痒くもないんだけど。実は現在時刻のここの管轄は僕、と君。」 いきなり知らされた宣告に、彼女は耳を疑う。 「は……。おまえとユウナじゃなかった…か?」 彼はにやりと笑って彼女に言い聞かせるように言う。 「残念でした。明日の清掃活動のビサイド地域は急遽ユウナさんに変わってね。で、君は今日のベベル」 愕然とした表情で、やられた、とぽかんと力無く口を開ける。 「はいはい。何か物買ってあげるから」 「だからもう子供じゃないっ!」 よしよし、とまるで子供として接するように彼女の頭を撫でる。ギロリと彼を睨み付けても、彼は全く怯(ひる)むこと無しに腰を上げた。 「どうする?今から一つ買わなくちゃいけないものがあってね。…どう?ついてくる?」 立ち上がった彼が彼女に訊ねると、彼女は首を横に振った。 「別にいい。…ここで待ってる」 「そう。良かった、待っててもらえるんだね」 にっこりと微笑んで言う彼に、また彼女は頬を染める。 「ごっ、誤解するなよっ。…私はただ……」 ただ待っておきたいから、 そんな可愛いことなんて私にはいえないだろ。 再び人込みへと消えて行く彼に、心なしか小さく手を振っていた。 結局すぐに帰って来ることは分かっているけれど、一度彼の服の袖を握っていたのは誰も知らない秘密のこと。 もう一度、手を広げて雪をのせる。 また、雪は溶けて消えていった。 丁度そのときに、彼はある一つの出店へと辿り着いて、以前はきっとものすごく女性から人気があったであろうとおもわれる、店主の中年の男性にこれ、と一点を指差して「ください」と言う。 「おや、議長さんじゃないか!お久しぶりでっ」 威勢の良い声で、彼に話し掛けながら、後ろにある高く積まれた棚の中から言われた商品の入った箱を出して来る。 「お久しぶりですね。確かあなたはいつもレストランで…」 「いやぁ、何せレストランは客が来ない、それで手が足りないっていう訳でこういう店にまわされたってこと」 どうやら彼の顔なじみのレストランの店長。 「で、これは女性にプレゼントっていう訳かい?」 「ああ」 彼が視線で指した先には、彼女の姿が人込みの隙間からちらりと覗く。 「じゃあ、お気を付けて」 包みに包んだそれを彼に渡すと、エボン式の礼を小さくして言う。彼もふっと笑って礼を小さくして彼女の元へと帰って行く。 「ごめんね」 「いいよ、別に」 歩いてきた彼に気が付いて、彼女が振り向く。 「何買ってきたんだ?」 「ん、いや」 そう彼は言って持ってきた袋の中の、包みを取り出す。 「みんな良い雰囲気だから、僕たちもそれにのってみようかと思って」 「は?」 包みを、その速さからは全く信じられないようなくらいに綺麗にはがしていくと、やがて見えて来るのは再び、黒い箱。 「お願いだから今日くらいは」 箱から器用に中身を取り出す。見えたのは…黒にシルバーの装飾が施されたケースのルージュ。 そして彼女の腰に手を廻して抱き寄せる。 「おっ、おまえなぁ……っ!」 「…今日くらいは久しぶりに名前で呼んでくれないかなぁ?ねぇ、パイン?」 「……っ!」 そう言って彼は蓋を口に銜えると、左手で彼女の顎を掴む。まるで手慣れているような手つきで筒を廻して、鮮やかな紅色の紅を出す。 ね、と訊ねているような目つきで彼女の目を見ると、一体どうしてこれほどまでに上手に塗れるのかが疑問に思うくらい、彼女の唇の端から塗り付けると、今までの彼女では絶対に付けたことが無いであろう鮮やかな紅色が広がってゆく。 すぐにばっと手で口元を隠すと、彼はしょうがない、という顔で紅を戻して口に銜えた蓋を付ける。 「なんでいきなり…!」 「いつもよりも色っぽくしてみても、君はいいかなって思って」 「…馬鹿」 すっと引き降ろした手の元には鮮やかに彩られた唇。戸惑ったような目で彼女が見て来る。 「いっ、嫌なんだからな…っ!」 彼が彼女の肩に手をのせ、顔を近づけると急に顔を引き戻して彼女に背を向ける。 彼女はきょとんとした顔で彼の顔を目で追う。 「ごめん、あとまで預けておく」 ものすごく良い色選び過ぎた……? は、ハマりすぎてる…! 「いや、自分で言うのもなんだけど、君にはまりすぎて…正直照れちゃって」 「はっ……らしくないな」 にやっと彼女が笑うと、また彼女の口元が艶めかしく光る。 彼はひたすら顔を隠すように手で覆っているだけで。 「なぁ」 まだ背を向けたままの彼の背を掴む、が依然に彼は振り向く気配はない。 「おい……」 強く引いても振り向く気配なし。 「バラライっ!」 彼の前に回り込んで彼の首元を掴む。しかしそのまま下を向いたまま顔を上げずにふるふると震えていた。 「自分でやっておきながら、そのままなんだからさ、自分で責任くらい取れよ…っ!」 ぎゅっと掴んだ手を一層強く握ると、彼を引き寄せて無理矢理の形にはなってしまったかもしれないが強く口付ける。 この、とある女性が新エボン党の議長へ強く口付けを送っていたということを、誰かが見ていた、ということは定かではないのだが。 今日の日の始まり、古い書物から見つかったこの日は いつのことだか知らない。 それでも、その日の夜だって、千夜も一夜も同じ きっと誰かが愛する人をまるでそこにいることが当たり前のように見つめていたのだろう。 きっと同じ事が繰り返されて きっと、誰しも似たような想いばかり残して 千夜、一夜ごときのことじゃない でも、それくらい短く感じれるような想い 真っ赤なルージュは千夜も一夜も 全て断ち切ってくれるような色 涙して失ったことだって、すべてをも断ち切ってくれるような。 始まりはこの世界の始まりだというずっと前の今日から始って 今も今に繋がっているのに 同じ事を繰り返すのは、ただの時間と想いが無駄なだけ。 お願いだから、この色で時間が止まって。 でも、今までの時間を繰り返してくれるのだというのなら もう一度だけ、二人の思い出を望ませて。 それから、この色で 本当の新しい千夜一夜じゃない、 何処にも有り得ないような新しい聖夜を。 fin. |